早稲田大学大隈講堂の設計者で日本建築学会会長も務めた建築家、佐藤武夫氏。当時、早稲田大学教授だった同氏の自宅事務所として1945年にその歴史をスタートさせたのが佐藤総合計画である。創設以来これまで、建築業協会賞特別賞を受賞した「東京国際展示場」(東京ビッグサイト)をはじめ、公共建築物の設計を中心に数多くの実績を積み重ねてきた。現在の社員数は約300名。国内で十指に数えられる組織設計事務所だ。
佐藤総合計画の本社ビル(東京都墨田区)。もちろん同社自身の設計によるものだ |
その同社は2012年11月、ワークスタイル変革を目的に約200台の「iPhone 5」を導入した。「こんなにいいとは思わなかった」と執行役員 社長室長の笠井隆司氏は顔をほころばせるが、iPhone 5という最適解に至るまでには二転三転もあったようだ。
フィーチャーフォンの導入に若手が「待った!」
直接の発端は、3.11だった。東日本大震災は多くの教訓を我々にのこしたが、その1つがBCP(事業継続計画)の見直しである。従来、佐藤総合計画では携帯電話を所員の一部にしか貸与していなかった。しかし、BCPのためには連絡手段を会社が貸与することも必要という考えから、携帯電話の会社支給に関して検討をスタートさせたのである。
最初に候補として挙がったのはPHSだった。震災時の話を聞いてみると、「PHSがつながりやすかった」という意見があったからだ。「ところがPHSでもメールの受信はできるが、設計事務所にはCADデータが付きもの。『PHSでは、とても機能しない』となった」(笠井氏)。
次に有力候補となったのはフィーチャーフォンだった。「導入一歩手前」のところまで検討が進むが、ある若手所員が“待った”をかけた。「今さらフィーチャーフォンを配るというのは、『事務所に戻ってから報告書を書け』ということですか」
建築の世界では、打ち合わせ内容を早期に施主と確認しておくことが重要となる。リアルタイムに取りまとめ内容を確認することが大切なのだ。先ほどの「報告書」とは、この打ち合わせ記録に関する報告書を指す。その若手社員は以前から個人所有のiPhoneとiPadを活用し、事務所に戻るまでに報告書を仕上げていたという。
フィーチャーフォンでは、これからの時代にふさわしいワークスタイルは実現できない――。彼はそう指摘したわけだ。
奇しくも佐藤総合計画では、働き方を見直すためのワークショップを立ち上げるなど、働き方に関する意識改革と環境整備に向けても本格的に動き出していた。約20名で構成された「電話検討委員会」には先ほどの若手所員も新メンバーとして参加。ワークスタイル変革による業務効率化という新たな目的も加え、皆が意見を出し合い約半年間の試行錯誤を経て、佐藤総合計画はスマートフォンへと舵を切った。