語学レッスンという従来の事業の枠を超えて、グローバルリーダーの育成を事業とする――。2008年4月に会長兼社長兼CEOに就任した内永ゆか子氏が下した決断のもと、ベルリッツ コーポレーションはビジネスモデルの変革を推し進めている。
価格競争が進行中の語学学校業界にあって、ベルリッツは、付加価値の高いサービスを提供する道を突き進んでいる。語学研修をべースにしつつも、クロスカルチャー研修やビジネススキル研修を行うグローバルリーダーシップトレーニング事業がそれだ。グローバル化が急速に進展する企業のニーズに応え、グローバルに通用する人材の育成支援を事業の根幹に据えたのだ。
この戦略を実行するうえで欠かせなかったのが風土変革によって同社自身を1つにすることだった。その発想は、本シリーズ第1回の図表1「会社組織と風土改革の関係」に示した取り組みそのものといえるだろう。
同社の久保田大介バイス・プレジデントは次のように話す。「当社は約70カ国・550拠点でビジネスを展開しているが、各国のランゲージセンターが独立してそれぞれオペレーションを行っていた。そのため本社からすると、どこでどういうスキルの人がどんな活動をしているのかが見えないのが実態だった。しかし新しいビジネスモデルを展開するためには、従来のやり方を変え、我々自身がグローバル企業にならないといけないと考えた」
バイス・プレジデントの久保田大介氏 | ITインフラストラクチャー・プロジェクト課長の加古直子氏 |
新しいビジネスモデルを世界各地の社員に速やかに浸透させること、そしてランゲージセンターごとにバラバラだったオペレーションを統合することがベルリッツの本部にとって急務となったのである。
この企業変革の旗を振ったのは内永CEOだ。ベルリッツの本社は登記上、米国のプリンストンにあるが、人材管理、IT、コーポレートセールス、広報など、会社を生まれ変わらせるために大きな役割を担う機能を東京に集中させた。同時に各分野ごとにタスクフォースを設置して課題の洗い出しを実施した。
タスクフォースの検討を踏まえ、ベルリッツが自社を統合するための手段として採用したのがICT環境の再構築――国や階層を越えて社員が自在にコミュニケーションできる環境の実現だ。それを具現化するため、09年3月に久保田バイス・プレジデントが指揮する「グローバルITプロジェクト」がスタートした。
初めに着手したのはグローバルデータセンターの構築である。09年9月に東京とプリンストン、ドイツのフランクフルトにデータセンターを設置して、世界中の拠点を結ぶITインフラを整備した。
次に行ったのが人材の把握だ。全社員の情報をデータベース化した「HR Core DB」が09年12月から稼働した。
そして、2010年1月に動き出したのが「SPACE」と名付けられた社内Webサイトである。
「SPACE」のトップ画面。内永ゆか子会長兼社長兼CEOのメッセージなどから構成されている |
SPACEは、企業ポータル(IBMのWebSphere Portalを採用)と企業ソーシャルソフトウェア(同じくIBMのLotus Connectionsを採用)の2本柱で構成されている。パッケージソフトウェアを採用することで、新しいコミュニケーションシステムの迅速な全社導入を狙った。
図表1 ベルリッツのグローバルITプロジェクトのステップ |