3.ローカル5Gで何ができる?どんな企業・団体が、ローカル5Gを使おうとしているのか。2021年9月時点で68者が免許を申請し、60者が本免許を取得している(
図表)。このうち通信事業者/SIerは、ローカル5Gシステム構築・運用支援サービスの提供を見据えた実証環境の構築を主目的としており、“ユーザー”としては製造業とケーブルテレビ事業者が多い。そのほか大学/研究機関、地方自治体、商社、金融機関が含まれている。
図表 ローカル5Gの申請者および免許人(2021年9月末時点)
業種 |
数 |
主な事業者 |
製造業/
メーカー |
25 |
アンリツ、エイビット、キャノン、京セラ、京セラコミュニケーションシステム、コニカミノルタ、シスコシステムズ、多摩川ホールディングス、東芝インフラシステムズ、凸版印刷、トヨタ自動車九州、トヨタプロダクションエンジニアリング、NEC、日立製作所、日立国際電気、ひびき精機、富士通、富士通ネットワークソリューションズ、三菱電機、安川電機、リコーインダストリー、APRESIA Systems、NECプラットフォームズ、日本無線、日立情報通信エンジニアリング |
大学/
研究機関 |
5 |
鉄道総合技術研究所、神奈川県立産業技術総合研究所、東京大学、東京都公立大学法人、スリーダブリュー |
国/
地方公共団体 |
4 |
国土交通省、東京都、兵庫県、徳島県 |
地域通信事業者/
SIer |
14 |
IIJ、NTT東日本、NTT西日本、NTTコミュニケーションズ、QTネット、GMOインターネット、TIS、ミライト、ネットワンシステムズ、オプテージ、日立システムズ、三井情報、旭化成ネットワークス、伊藤忠テクノソリューションズ |
ケーブルテレビ
事業者 |
16 |
秋田ケーブルテレビ、ケーブルテレビ(栃木県)、JCOM、たまケーブルネットワーク、ZTV(三重県)、ラッキータウンテレビ(三重県)、金沢ケーブル(石川県)、ケーブルテレビ富山、高岡ケーブルネットワーク(富山県)、となみ衛星通信テレビ(富山県)、中海テレビ放送(鳥取県)、愛媛CATV、ハートネットワーク(愛媛県)、コミュニティーネットワークセンター、キャッチネットワーク(愛知県)、ひまわりネットワーク(愛知県) |
その他 |
4 |
野村総研、住友商事、三井住友銀行、丸互 |
合計 |
68 |
※ 本免許取得者:60 者 |
出典:総務省資料より作成
スマート工場の実現手段に
導入意欲が最も強い製造業では、工場ネットワークの無線化、スマートファクトリー実現の手段としてローカル5Gを活かそうとしている。
製造現場には工作機械・ロボット等と制御システム、生産管理システム等をつなぐ有線ネットワークが張り巡らされている。そして近年はIoT化の進展によって、生産設備からセンサーデータを収集・分析したり、工作機械・ロボットを遠隔・協調制御したりするためのIoT用のネットワーク構築・拡充が進んできた。
こうした工場内ネットワークを無線化するのに、ローカル5Gは適している。機械制御や生産管理には低遅延・高信頼性が何より求められ、IoT用途では、大量のデータを収集するための高速・大容量通信、膨大な数のIoTデバイス/センサーを収容できる多数同時接続という5Gの特性が活かせるからだ。
工場ネットワークを無線化できれば、生産ラインの組み換えやレイアウト変更が柔軟かつ迅速に行えるようになる。需要の変動に応じて、必要な製品を必要な数だけタイムリーに生産して供給する変種変量生産への対応も容易になる。
例えば、オムロンはNTTドコモ、ノキアと共同で滋賀県の草津事業所に実証環境を構築し「フリー生産ライン」の実証を進めている(写真)。生産設備のネットワークを無線化し、自動搬送ロボットも組み合わせて、工程ごとに切り離したレイアウトフリーな生産ラインを実現。需要の変動に応じて生産ラインを迅速に組み換えられるようにするのが狙いだ。

オムロンが1月12日にオープンした「オートメーションセンタKUSATSU(ATC-KUSATSU)」。ローカル5Gを使ったフリー生産ラインの実証、共同検証等を行う
地域創生の基盤インフラに
製造業ではこの他にも、新たなユースケースが次々と出てきている。代表例が映像伝送・解析だ。
生産現場を撮影した高精細映像をローカル5Gの高速・大容量通信でサーバー/クラウドに伝送し、AIで解析して作業の正確性を判定する、熟練者が遠隔地から映像を見ながら現場作業員を指導・支援するといった用途がある。こうしたユースケースは、建築・工事現場の作業支援や新人教育、医療現場の遠隔診断・診療など、他業界にも応用できよう。
高速・大容量通信と低遅延・高信頼通信を組み合わせた用法として有望視されるのが、建設機械の遠隔操縦だ。現場の機械と遠隔地のコックピットをネットワークで結び、現場の状況を映像でリアルタイムに確認しながら遠隔操縦する。
ケーブルテレビ事業者や通信事業者/SIerは、営業エリア内でローカル5Gを使ったモバイル通信サービスの提供を目指すほか、有線ネットワークと遜色ない通信性能が確保できる利点を活かして、光ファイバーの代わりにFTTHサービスのラストワンマイルにローカル5Gを活用しようという取り組みもある。FWA(固定無線アクセス)と呼ばれるもので、配線の手間・工事費をなくせるメリットが大きいことから、大規模マンション等へのサービス提供を目指して実証実験を始める事業者も出てきている。
自治体では、スマートシティの通信基盤、地元産業のデジタル化を推進する基盤として活用しようとする方向性も見られる。観光地・商業施設における情報発信や住民向けサービスの基盤としても活用する。
また、パブリック5Gで障害や輻輳等が発生しても、その影響を受けず安定した通信環境が確保できることから、Wi-Fiの整備が進む学校や交通機関、公共施設等の情報通信インフラ、防災用ネットワークとしてもローカル5Gは有用だろう。

月刊テレコミュニケーション2022年2月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)