<特集>海のIoT「水中光Wi-Fi」で高速通信――青色LEDが切り拓く海中マーケット

水中における無線通信速度を“キロ”から“メガ”へと一気に飛躍させる新技術の開発が進んでいる。日本のお家芸とも言える青色LEDを使った可視光通信によって、海中マーケットを開拓しようとする取り組みだ。

産学で海中マーケット開拓こうした利用シーンの開拓と新産業創出に向けて、産業界と学術機関が連携する動きも出てきた。海中マーケットの開拓と、海中光技術による産業育成を目的として5月に設立された「ALAN(Aqua Local Area Network)コンソーシアム」である。

これは、一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)が行うベンチャー支援策「共創プログラム」の第1弾として採択されたもので、青色LED技術をベースにした「水中無線通信」「水中LiDAR」(対象物にレーザー光を照射して距離の測定やスキャンを行う)、そして「水中無線給電」を使った新ビジネス創出を目指す。JEITAにコンソーシアム設立を働きかけた千葉県市川市のベンチャー、トリマティスの代表取締役である島田雄史氏はこう話す。

「日本は青色レーザーの技術に長けているうえ、もともと海中光技術をリードしていたのに、ここ数年で米国に抜かれつつある。これをなんとかしようと呼びかけたところ、関連技術を持つ錚々たるメンバーが集まった」

トリマティス 代表取締役 CEO 島田雄史氏
トリマティス 代表取締役 CEO 島田雄史氏

3年後に海中光LAN水中無線通信と同じく、水中LiDARも無線給電も青色光を使う。ALANコンソーシアムはこれらにより、図表に示したような海中無線ネットワークの実現を目指すという。

図表 ALANコンソーシアムが目指す3年後のイメージ
図表 ALANコンソーシアムが目指す3年後のイメージ

船やブイに中継器をぶら下げ、中継器間をレーザー通信で接続して「海中LAN」を構成。さらに、中継器をWi-Fiスポットのように用いて、ドローンやダイバー、センサー機器などとの通信を行う。

コンソーシアムにはすでに様々な要素技術が集まっている。研究開発機関の名前とともに列記すると、海洋探査(JAMSTEC)、青色LD(名城大)、水中光無線給電(東工大)、高効率可視光ファイバーレーザ-(千葉工大)、スキャナー(産総研)、LD外部変調技術(NICT・早大)、LD直接変調技術(トリマティス)、AI・ロボティクス(千葉工大)、水中LiDAR(トリマティス)、海底環境調査(KDDI総合研究所)、海底地質調査(産総研)、水中光無線通信(東北大、東海大、山梨大)といった具合だ。

今後は、光デバイスや機器、アプリケーション開発を行う企業の参画を募る。「すでに複数のメーカーと交渉中で、ユーザーになり得る企業にも声をかけ年内に20社集めたい」と島田氏は語る。

ターゲットは「ポスト2020」ALANコンソーシアムの目標は技術開発に留まらず、3年を目処に「何らかの新ビジネスを立ち上げること」(島田氏)。ニーズを見込むのは水産業や測量・点検、セキュリティ、レジャー等の分野だ。水中建造物・インフラの点検や調査を行うダイバーが人手不足に陥っており、水中ドローン/ロボットによる作業の代替が求められているという。「我が国は、2020年まではインフラを作るので手一杯だが、その後、老朽化対策が本格化するはず。“ポスト2020”をターゲットにビジネス開拓を進める」と島田氏は語る。

水中ドローン/ロボット活用のニーズはそのほか、造船業の船底検査や漁業の養殖場監視などの分野でも高まると考えられ、造船メーカー等も興味を示しているという。また、レジャー用途では、水中ロボットを操作して海上で映像を視聴する「VR水族館」のような使い方も可能になるかもしれないと同氏は展望する。

こうしたアプリケーション開発や事業化を見据えた動きを進めるうえで、JEITAの果たす役割も大きい。ALANコンソーシアム立ち上げのベースとなった共創プログラムとは、JEITAの非会員企業も巻き込んだ新産業創出を目的とした施策だ。「デバイスやアプリケーションを提供する側だけでなく、ユーザーとなり得る企業も参加して、共創によって新たな市場を起こしていこうという取り組み」とJEITA理事・事務局長の井上治氏はその意義を述べる。

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) 理事 事務局長 井上治氏
一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)
理事 事務局長 井上治氏

JEITAは当面、メンバーの募集や事務局機能の提供等でALANコンソーシアムを支援するが、技術開発が進み実用化が見えてきた段階では、「制度整備や国際標準化といった課題も出てくる。それこそJEITAが最も強いところ」と、海中光技術の海外展開も見据えてバックアップする方針だ。

“水中の新経済圏”を開拓するための取り組みがいよいよ本格化する。

月刊テレコミュニケーション2018年9月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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