京都セミコンダクターは、光通信関連のセンサー、フォトダイオードなどを製造する、1980年創業の光半導体デバイスの専業メーカーだ。京都と東京に本社を、北海道の恵庭と上砂川に事業所を構える同社は2020年の緊急事態宣言をきっかけに、「徹底的なクラウド化」「IoT化の推進」の2つを掲げ、「京セミDX」を進めてきた。
オフィスワークには、Microsoft 365やIP電話、財務、会計管理、人事労務などのクラウドサービスを導入し、在宅勤務環境を早急に整備。北海道の製造現場では、旧式設備をIoT化するプロジェクト「スマートFAB」を立ち上げた。そしてこのスマートFABが、わずか200万円の投資で目覚ましい成果を上げている。
各部門から精鋭が集結まず、恵庭事業所では、プラズマCVD装置をIoT化した。これは光通信用チップの作成プロセスのうち、絶縁薄膜を成膜する工程で使われる装置だ。薄膜構成原子を含む化合物ガスをプラズマを用いて解離、イオン化し、ウエハ表面上での化学反応を利用して絶縁薄膜を成膜する。
「使いこなすのにかなりノウハウが必要な装置で、駄目になったからといって気軽に買い換えられるものではない。装置が変わると膜質などフォトダイオードの特性に影響してくるからだ」と同社 製造本部 副本部長の西村諭一氏は解説する。
京都セミコンダクター 製造本部 副本部長 西村諭一氏
現在の装置は設置から25年以上ほぼ毎日稼働している。最新機器と違い1つ1つのパラメーターは数値ではなく手作業で調整するため、稼働状況を数値で把握できない。そこでガス流量、真空度、高周波電力などを計測するセンサーと産業用Raspberry Piを取り付け、遠隔地からモニタリングできるシステムを構築した。
また、上砂川事業所には、温度、湿度、照度、気圧、加速度などを計測できる環境センサーと産業用Raspberry Pi、空気中の微粒子などを計測するパーティクルカウンターを設置した。
そして、これら2拠点で発生したデータを全て、シーメンスのゲートウェイ「Mind Connect Nano」を経由して産業用IoTプラットフォーム「MindSphere」に蓄積し、リアルタイムで可視化、異常が発生した場合はすぐに担当者にメールで通知するようにした。
図表 京都セミコンダクターにおけるMindSphere活用
MindSphereを採用した理由は、クラウドベースであったこと、グローバルサポートが他社よりも優れていたこと、使用料金が年間約45万円と低価格でスタートできたことなどにあったという。工場のデータをクラウドサービスに上げるとなると、心配になるのがセキュリティの問題だが、これもシーメンス側で担保されているため、ユーザー側で特別な対策をする必要はなかったという。
こうしたスマートFAB第1期の取り組みは、2020年4月の発足から9月末まで、約6カ月の間に企画から設計、実装、テストを行った。今回のチームメンバーは10名ほど。「Raspberry Piの設定やプログラミングは、当社にいるエンジニアが手掛けた。普段は光デバイスの設計などをやっている者達だ。各部門から腕に覚えのある人が集まった」(西村氏)