――5Gの現状をどう捉えていますか。また、通信事業者のビジネスモデルはどう変わっていくでしょうか。
中川 「まだエリアは行き届いていないし、今のところ期待通りではない」というのが、一般消費者の方々の印象かと思います。しかし、我々ITベンダーの温度感は違います。通信事業者各社は着実に準備を進められており、重要なプロジェクトが目白押しです。
5Gは、今までのモバイルネットワークとは性格を全く異にしています。1Gから4Gまでも、Webができるようになったり、スマートフォンになったり、様々な改善がありました。しかし4Gまでは、あくまで一般消費者に対するサービス向上だったわけです。企業ユースではありません。
一般消費者向けモバイルサービスは、来るところまで来ています。5Gへの投資に見合った収益を得られるような画期的な新サービスが今から生まれるかというと、「携帯料金値下げ」という逆風も吹いていますし、非常に厳しいと思うのです。そのため通信事業者としては、企業での5G活用を促進していかないといけません。これが4G以前と5Gで大きく違う点です。
――B2B2Xモデルを数年前に掲げたNTTグループをはじめ、大手通信事業者各社は企業とのサービス共創に注力していますが、こうしたビジネスモデルのシフトが5G時代にいよいよ本格化するということですね。
中川 そうです。新型コロナの影響もあって、企業も自社のデジタルトランスフォーメーションを加速するために、5Gという新しいネットワークを自社のビジネスにどう活かしていくのか真剣に考え始めています。実験段階のものが多く、まだ表にあまり出せないのですが、シスコも製造業や金融業、流通業など多くの企業の支援をさせていただいている最中です。
シスコのエリアが広がった――モバイル業界が転期を迎えている中、シスコジャパンの通信事業者向けビジネスは大変好調のようです。10月に開催した事業戦略説明会では、日本のサービスプロバイダー向けルーター市場におけるシェアが1年前より10%近く高い75.1%になったと明らかにしました(IDC Japan調査、2020年第2四半期)。好調の背景にはネットワーク側の変化もあるのですか。
中川 モバイルネットワーク全体を見渡すと、従来IPでコントロールできていたのは、実はコアネットワーク周辺だけでした。それがアーキテクチャーの変化に伴い、5Gでは無線アクセスネットワーク(RAN)の手前までIP化が進展してきています。その結果、私どもがお手伝いできるエリアが広がったという背景があります。
レイヤー2で基本的に構築されてきたモバイルバックホールを、5Gでレイヤー3にすべきかどうか、という議論はずっと続いてきました。シスコとしてはIP化の重要性を踏まえてセグメントルーティング(SR/MPLSやSRv6)というプロトコルを提案してきたわけですが、私どもの考えに賛同していただける方が増え、現在の流れになっていると考えています。
――なぜIP化が重要なのか、解説していただけますか。
中川 その理由はネットワークのインテリジェンスがユーザー側へとシフトしていくからです。もう少し具体的に言えば、エッジコンピューティングです。
RANの一部をソフトウェアとして展開するvRANなど、今後エッジコンピューティングの世界になっていくと、硬直的なネットワークコントロールしかできない従来のレイヤー2ではさすがに厳しくなります。