ソシオネクストはこの6月、国内半導体メーカーとしては初めて、ZiFiSense社のLPWA規格「ZETA」に対応したICタグ「ZETag」用SoCの開発を開始した。
2020年度中にサンプル出荷を始め、2021年末に量産をスタートする。ソシオネクストのSoCを採用したZETagの量産は、2022年第1四半期から始まる見込みだ。
すでに海外ではZETag用LSIが量産されているが2チップ構成だ。これに対し、ソシオネクストではCPUやメモリ、RF回路、周辺回路を1チップ化することで「単価が数十~数百円へ低廉化するとともに、小型化や低消費電力化、高品質化を実現できる」とソシオネクスト コネクテッドソリューションチーム ビジネス戦略部 部長の國谷幸正氏は話す。
また、国内の顧客の中には「国内メーカー製」を求める声が根強くあった。「その期待に応えることもできる」(ビジネスマーケティング統括部 課長の浦出正和氏)という。
ZETAは、リレー式にデータを送受信するマルチホップメッシュネットワークにより長距離通信を特徴とする。このZETAのサブセットでICタグに特化したZETagは約2㎞の長距離通信ができ、ボタン電池1個で約3万回の通信を行えるが、その主たる用途の1つとして想定しているのが物流管理だ。
物流管理には、これまでICタグが用いられてきた。
ICタグには、電池を内蔵するアクティブタグと内蔵しないパッシブタグの2種類ある。従来の主流はパッシブタグの方だ(図表1)。電池を内蔵せず、リーダーライターからの電力で電波を発信するパッシブタグにはコストが安く、半永久的に使えるといった利点がある。ただ、通信距離は短く、リーダーライターで読み取るため漏れが発生しやすいといった課題もあった。
図表1 ZETagの位置づけ
そこに登場したのがZETAをはじめとするLPWAを採用したアクティブタグだ。電池交換なしで数年間使え、また従来のアクティブタグをはるかに超える長距離通信が可能だ。広大な物流現場全体をカバーすることもできる。
実際、LPWA市場の中で物流管理が占める割合は年々拡大しており、2021年には全体の約5割に達するとの予測もある(図表2)。
図表2 世界の分野別LPWA市場規模および接続台数の予測
ZETagを導入すると、基地局(AP)により構築されたプライベートネットワーク圏内であれば、タグから一定間隔で発信されるID情報を自動的に受信し、モノの位置情報を特定することが可能だ。
「商品とコンテナやパレットのエンド・ツー・エンドの可視化を実現し、より確実にトラッキングできるようになる」と凸版印刷 DXデザイン事業部ビジネスアーキテクトセンター 事業企画本部 スマートシティ推進部 ZETAIoTプロジェクト課長の諸井眞太郎氏は述べる。
昨今、物流の現場では、パレット(荷物を載せる荷役台)の紛失が常態化しており、他の業者に持って行かれるケースも後を絶たない。国内で流通している約5億枚のうち1割以上が紛失しているとのデータもある。「流通業界ではパレット管理が死活問題だが、ZETagはその解決に一役買うことができる」とZETAアライアンス代表理事でテクサー 代表取締役社長の朱強氏は語る。
ZETAのAPはコンパクトサイズのものも開発されており、トラックなどの車両に搭載すれば、輸送中も含めた位置情報を把握することが可能だ。
ZETagを使った光ケーブルドラム管理の実証実験では、直線距離で600mほど離れた資材置き場と施工前材料置き場の間で、移動するトラックも含めて資材の位置状況や利用状況を把握できることが確認されたという。
この他にも、配達状況をリアルタイムに把握できることで、宅配の「ラストワンマイル」における再配達の増加とそれに伴う人件費の高騰といった課題の解決につながることが期待される。また、温度センサーなど機能性タグを使えば、HACCP(危害要因分析重要管理点)による衛生管理も低コストで行えるようになるという。