SD-WANの普及に伴い、企業ネットワークは様変わりする。専用線とインターネットを使い分ける「ハイブリッドWAN」が一般化。拠点から直接インターネットへ抜けるローカルブレイクアウトの採用も増えている。
かつては不動のインフラだったWANも、今ではビジネスの状況に応じて作り直せる柔軟性と拡張性が不可欠となった。そうしたニーズの高度化に合わせて、SD-WANもまた進化を始めている。2018年頃から北米で議論が盛り上がった「SD-WAN 2.0」だ。
初期のSD-WANがハイブリッドWANや迅速な拠点網展開を目的としたシンプルなソリューションだったのに対し、SD-WAN 2.0は「多機能化」「マルチベンダー化」「マルチクラウド接続」「セキュリティ統合」「モバイルアクセス対応」など、高度なニーズを満たすことを目指している。
これを牽引するのがONUG(Open Networking User Group)、オープンネットワーキングを志向する北米の大手企業が主導するユーザー団体だ。ここで定義されたSD-WANの技術要件はベンダーの技術開発とユーザーの導入選定における指針となっている。
このONUGのSD-WAN 2.0ワーキンググループが昨年、「SD-WAN 2.0リファレンスアーキテクチャ」を公開した。図表1のように5つのユースケースで求められる要件を指定している。企業WANの進化の方向性を示すものと言え、ベンダー/キャリア各社がこれに基づくソリューション開発を進めている。また、ネットワーク技術の標準化団体であるMEF(Metro Ethernet Forum)もONUGとの連携を強めている。
ONUGが定めるSD-WAN 2.0の「5つの要件」SD-WAN 2.0はどのように実現されるのか。まず、図表1のリファレンスアーキテクチャで想定されているユースケースと要件を確認しよう。
図表1 SD-WAN 2.0のアーキテクチャと主要要件
要件の①②③はクラウド接続に関するものだ。拠点からSaaS/IaaSへ安全に接続できること、マルチクラウドへシームレスにつながること、インターネットブレイクアウトや閉域接続など複数の形態が選べることが条件となる。コネクティビティだけでなく、SaaS/IaaSへの接続経路上でセキュリティ機能も提供する。
要件④は、APIを介して、クラウド内の仮想ネットワーク(クラウドファブリック)とSD-WANファブリックを連携制御するような使い方を想定している。そして要件⑤として、CPE(宅内通信機器)のない環境から接続するモバイルユーザーのサポートも求められている。
これらを実現するには、3つの技術要素が必要と話すのは、SD-WAN2.0サービスの商用化を目指して技術開発を進めているNTTコミュニケーションズ イノベーションセンター テクノロジー部門 主査の沈文裕氏だ。(1)ネットワークエッジ基盤、(2)カスタマーエッジ基盤、(3)サービスオーケストレータである(図表2)。
図表2 SD-WAN 2.0の構成技術