キャリアにとって、通信品質はユーザー獲得の競争力に直結する。そこで、どのキャリアもできるだけ高品質を維持しようと、発信した電波の接続成功率や通話の切断率など、様々な指標を設定しながら日夜努力を重ねている。しかし、悩ましいのは無線が環境変化による影響を受けやすいことだ。「季節や曜日、時間帯によっても環境は変わる」とKDDIの根村諭氏は語る。
KDDI 自動化開発グループリーダー 根村諭氏
そのため、キャリアは全国各地に技術者を配備し、現地調査と通信品質の分析、そして改善策の立案・実行というサイクルを回しながら品質を維持してきた。
ただ、通信品質に関連するデータは量も種類も膨大だ。「人の目で見られる数には限りがあった」とNTTドコモの浜瀬利道氏は明かす。
NTTドコモ 無線アクセスネットワーク部 エリア品質・品質企画担当 浜瀬利道氏
こうした背景から、キャリアは大量のデータを扱えるAI技術を、通信品質向上のために活用し始めている。
500倍近い運用効率化もKDDIがエリクソンと共同開発し、全国の基地局に展開しているのが図表1の仕組みである。自律的に各基地局から収集したデータをもとに、AIが最適な無線ネットワークパラメーターの提案を行う。
図表1 AIを活用したネットワーク最適化手法の概要
AIの強みの1つは、過去や別の地域のデータと瞬時に比較できることだ。「例えば、あるエリアのスループットを前の週と比較するなどして、すぐ通常時と異なることに気づける」と根村氏は説明する。
こうした分析は人間でも可能だが、AIとはスピードが全く異なる。「あるトライアルでは、10人日・80時間ほどかかっていた基地局の調整作業が、AIを活用したことで約10分に短縮した」。単純計算でおよそ480倍の効率化だ。
また、エリクソンはAI技術により、過密エリアのスループットを10%近く向上できたと発表している。従来であれば、最適なパラメーターを導き出すのに数千時間かかる過密エリアの分析が30分以下に短縮可能になったという。
「最終的にはネットワークが生きているかのような、その場に応じた最適化を基地局が自動で実施する、ハンズフリーなシステムを目指している」(根村氏)。