英国ケンブリッジに本社を置くZiFiSense社(CEO:李卓群氏)が開発した新しいLPWA規格「ZETA」。その普及を目指し、2018年6月に5社でスタートしたZETAアライアンスの会員数が今年3月、101社となった。ITベンダーやデバイスメーカー、素材メーカーなど多彩な企業・団体が参加するアライアンスには昨年、大手通信キャリアのNTTドコモ、ソフトバンクも参加している。
日本に先駆けてZETAの展開が始まった中国でも2019年4月に普及促進団体ZETAアライアンス・チャイナが設立され、3月時点で約110社の会員を擁している。日中両国で、200を超える企業・団体を呼び込むZETAの魅力はどこにあるのか──。
凸版印刷は昨年4月、初の国産ZETA通信モジュールの提供を開始した。同社 DXデザイン事業部 課長の諸井眞太郎氏は、他のLPWAにはないZETAの魅力を「マルチホップネットワークにある」と説明する。「電池で稼働する中継機(Mote)を使って簡単にエリアを広げられ、ネットワークを非常に低コストで構築できる」のである。双方向通信への対応や、2kHz幅の超狭帯域通信で限られた電波資源を有効活用できることも、ZETAの利点だという(図表1)。
図表1 ZETAのネットワーク構成と特徴
こうした優位性に着目し、ZETAの商用導入に踏み切るケースも出てきた。
ドコモは、昨年11月に提供を開始した営農支援プラットフォームサービス「畑アシスト」で圃場などに設置する気象、土壌、水用センサーのデータ収集にZETAを活用している。
スマートライフ推進部 食文化事業 フードテックビジネス担当課長の大関優氏は、その理由について「中山間地のお客様の圃場にどうやって電波を届けるかが、サービスを提供する上で大きな問題だった。ZETAはこうした用途に使いやすいと感じている」と説明する。大関氏は、ZETAの強みを「後発の利を活かし、既存のLPWAの課題解決を考慮して仕様が作られている」点にあると評する。
凸版印刷の諸井氏によると、収入が少なくIoTにコストをかけられない農業分野では、安価にネットワークを構築できるZETAにチャンスがあるという。
アライアンスではZETAの商用展開を加速させるため、メンバー間での様々な形の協業を実現する取り組みに注力している。すでに実績が上がってきたのが、「日本発」のZETAデバイスの開発だ。
【ZETAアライアンス理事】(左から)NTTドコモの大関優氏、凸版印刷の諸井眞太郎氏、マクセルの宮本真氏、テクサーの朱強氏、アイティアクセスの澤村宗仁氏。この他にQTNet 経営企画部副部長の岩渕宏信氏が理事を務めている
例えば、組み込みソフトベンダーのアクセスは、同社のソフトウェアプラットフォームを凸版印刷のハードウェアと組み合わせて、国産GPSトラッカーの早期製品化を実現した。
同じく凸版印刷のZETA通信モジュールを用いて開発され、注目を集めている国産デバイスに、Neusoft社の「OCR検針器」がある(現在は開発陣が設立したDeep Vision社が展開)。アナログ水道メーターの表示をカメラで撮影し、その画像をOCR(光学的文字認識)ソフトで読み取り、検針データに変換してZETAでサーバーに送るというものだ。既存の水道メーターに後付けで導入することもできる。
デバイス以外にも、完全な閉域接続環境の提供により高いセキュリティを求める病院や工場での導入を可能にするNECネッツエスアイの「Symphonict ZETA閉域プラットフォームサービス」など、ビジネスで利用するための道具立ても揃ってきた。