――情報通信事業本部長に就任して3年目を迎えましたが、情報通信事業は業績好調ですね。昨年度は増収増益、今年度はそれをさらに大きく上回る勢いです。
坪井 我々は2016年、それまで別々だった情報系と通信系、公共系の組織を1つの事業本部にまとめた現在の組織体制に移行しました。そして、私が事業本部長に就任した翌年の5月に発表した「中期経営計画2019」において、成長戦略の柱として打ち出したのがIoTです。
OKIという会社は従来からICTによる社会課題の解決に取り組んできましたが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の時代になり、IoTなどの技術のレベルも非常に上がってきました。そこで「社会インフラ×IoT」という軸で注力分野を決めて、ビジネスをどんどん成長させていこうと考えたわけです。
今年度は中期経営計画の最終年度ですが、計画以上に進んでいるという認識を持っています。
――「社会インフラ×IoT」路線は、しっかり軌道に乗ったと。
坪井 そうですね。中期経営計画を発表した当時は、まだSociety5.0やSDGsへの関心はそれほど高くありませんでした。しかし、今やグローバルでも日本でも、ICTで社会課題を解決しようという動きが各業種で加速しています。
そうしたなか、「ベース事業」と呼んでいる既存ビジネスは大変好調ですし、IoTを軸とした「成長事業」での新しい取り組みも順調に進んでいます。
――10月3日には「成長事業」における新たな打ち手として、AIエッジコンピューター「AE2100」を発表しました。狙いは何ですか。
坪井 IoTのPoC(コンセプト実証)に数多く取り組むなか、解決しなければならない課題が明確になりました。エッジ側でAIをしっかりと動かせるコンピューターが「どこにもない」という課題です。
――そうなのですか。
坪井 ここで言っているAIとは、分かりやすく説明すると、ディープラーニングの推論です。
――機械学習/ディープラーニングは、AIの性能を向上させる「学習」と、それで出来た学習済みモデルを用いて結果を出す「推論」の大きく2つのプロセスに分かれています。
坪井 さすがに学習は、クラウド側で行えばいいと思います。しかし、推論はデバイスに近いエッジ側で実行した方が、よりリアルタイムに結果をフィードバックできますし、ネットワークの負荷も少なくできます。さらにセキュリティのため、外部にデータを出したくないというニーズもあります。エッジ側の業務特化型システムを強みにしているOKIとしては、そのためエッジコンピューティングが非常に重要であると考えてきました。
ところが、現在ある産業用コンピューターなどでは、パワーが足りないのです。
――ディープラーニングの推論を行うのに十分な処理能力を有したエッジコンピューターが存在しないということですか。
坪井 そうです。これまであったのはIoTゲートウェイ的な発想の製品で、AIを動かすためのエッジコンピューターはありませんでした。
もちろんGPUをたくさん搭載したサーバーであれば、AIはしっかり動きます。しかし、そんなものをエッジにばら撒くわけにはいきません。エッジでは、コストパフォーマンスが重要だからです。
工場をはじめ、いろいろな産業用途での活用を考えますと、インターフェースも重要です。ノートPCは、RS-232CやRS-485といったレガシーなシリアルインターフェースを搭載していません。また、耐環境性も当然ながら必要です。
ディープラーニングは非常に強力な技術であり、データさえあれば、いろいろなAI処理が実現できる時代になっています。しかし、エッジで推論を行うためのハードウェアプラットフォームだけがなかったのです。
ただ、それも無理はありません。「AIエッジ」という市場自体がこれまで存在しなかったのですから。
――そこで自ら作ることにしたというわけですね。
坪井 そうです。「市場になかったから」というのが一番の動機です。私たちはこの3年間、数多くの顧客とDXに関する共創に取り組むなか、AIエッジコンピューターの必要性を強く感じてきました。現場の本当のニーズを把握していたからこそ、AE2100を開発したのです。