SaaS化も検討中
Sphericallは業務システム連携のハードルを劇的に下げた。ただ、この領域はまさに今から作っていくものであり、それだけでうまくいくわけではない。NECはどのようにこの新領域を開拓していく考えだろうか。
まずNECの組織体制だが、第二企業ネットワークソリューション事業部内に「UCシステム部」を設置。ここがコミュニケーション機能を業務システムの中に埋め込むという活動をパートナーと一緒になって進めていく。すでに国内でも、ある大手企業で具体的なプロジェクトが進行中だ。また、東京都奥多摩町で実証実験中の遠隔予防医療相談システムにSphericallは使われているが、そのほかにも複数の自治体との間で話があるという。
NECが今から開拓しようという新領域において、Sphericallはある意味、業務システムという“主役”をさらに引き立てるための“脇役”というべき存在だ。それだけに、“主役”側のプレイヤーをパートナーとしていかに多く巻き込んでいけるかが生命線となる。そこで以前から展開してきたUNIVERGEパートナープログラムを拡張し、Sphericallを利用したアプリケーションやサービスを提供するパートナー向けのプログラムも新たに提供する。また、パートナー同士の交流会などにも力を入れていきたいという。
Sphericallの販売方法はユーザー企業それぞれの課題やニーズにあわせてソリューションを組み上げていくSIモデルが中心になるが、通信系の販売店にとって、このモデルは決して取り組みやすいものではない。そのため、特定のソリューションをアプライアンス化して提供することも検討中だ。音声システム中心の販売店にとっては今後も厳しい環境が続くと予想されるが、アプライアンス化がなされれば「商売を広げていくためのツール」(平田氏)としても期待できるだろう。
さらに、SaaS型での提供も視野に入っている。「完全にソフトウェアベースなので、サービス化はしやすい。今はまだ言えないが、具体的にいくつか考えている」と平田氏は話す。
“世界”との戦い
UCにとって最大の課題の1つであるユーザー企業への導入メリットの訴求については、(1)ユニファイド・プロセス、(2)ユニファイド・デスクトップ、(3)ユニファイド・インフラの3つの切り口で提案していく方針だ(図表3)。
図表3 UNIVERGE Sphericallが提供する価値 |
(1)は業務プロセスの革新。業務システムにコミュニケーションをアドオンすることで、業務の効率化や生産性の向上などを図っていく。例えば英国のレスターカーブ劇場では、Sphericallを使って顧客管理システムとの連携を実現し、顧客1人1人に対してきめ細かなサービスを提供しているという。
(2)ユニファイド・デスクトップはデスクトップ環境の効率化。Sphericallはソフトフォン、プレゼンス、会議、ボイスメールなどを基本機能として備えるほか、Outlookとの連携機能も提供されている。
(3)ユニファイド・インフラは、コスト削減と遠隔コラボレーションの実現である。前述の通り、IP電話、テレビ会議システム、モバイルなど各種コミュニケーション端末の統合がSphericallの特徴だが、そのため柔軟性/拡張性の高いシステム構築が可能になる。
Sphericallの登場により、日本のユニファイドコミュニケーション市場は間違いなく新しいフェーズに突入するが、実はNECのアプローチはグローバルで見れば、珍しいものではない。ノーテル、アバイア、シスコなども同様のSOA型ユニファイドコミュニケーションを展開し始めているからだ。
音声システムの付加価値が下落していくなか、PBXベンダーがどの領域で高い付加価値を新たに創造できるかといえば、おそらくは業務システムや多様なコミュニケーション手段をつなぐ“糊”としての役割――Sphericallの領域しかないが、その覇権は前述のネットワーク系だけでなくIT系のプレイヤーも狙っている。
NECはSphericallで、コミュニケーションの新たな付加価値をめぐる熾烈なグローバル競争に挑んでいるのである。