本格的なIoT時代を前に、組み込み型のeSIM(embedded Subscriber Identity Module)の活用が急速に進んでいる。
スマートフォンなどのモバイル端末は、電話番号や加入者識別番号などネットワーク接続に必要な情報(通信プロファイル)を書き込んだSIMカードを本体に差し込むことで通信を行う。この通信プロファイルをリモートで書き換えることはできないため、通信キャリアを切り替えるにはSIMカードの入れ替えが必要だ。グローバルにIoTデバイスを展開する場合、国ごとにSIMカードを差し替えたり、割高なローミングサービスを利用するなどの必要があり、大きな障壁の1つとなってきた。
そこで「IoTに必須」と言われてきたのがeSIMである。eSIMの場合、あらかじめデバイスに内蔵させておいたSIMに、後から通信プロファイルをダウンロードすることができる。このため、SIMの抜き差し不要で簡単に通信キャリアを切り替えられる。また、SIMを差し込むためのスロットも不要になる。
このeSIMの導入は2017年から拡大し始めたが、今後さらに普及が進み、IoTビジネスの活性化に貢献していくことになる。
店頭のオペレーションを簡略化まずは、現在までのeSIMの主だった動きを振り返ろう。
eSIMの採用は、自動車や建機などで先行してきた。これには、eSIMの標準化作業も関係している。eSIMの仕様は、モバイル通信の業界団体GSMAによって「M2Mモデル」と「コンシューマーモデル」の2つが策定されている(図表1)。管理者などがネットワーク側から通信プロファイルを書き換えるプッシュ型がM2Mモデル、ユーザーがデバイス側から通信プロファイルを書き換えるプル型がコンシューマーモデルだが、M2Mモデルの標準化が先に進められてきたためだ。
図表1 eSIMのM2M/IoT向けとコンシューマー向けの違い
しかし2016年10月にリリースされたコンシューマーモデルのRSPバージョン2で、通信プロファイルをデバイスに直接ダウンロードできるようになったことから、コンシューマー機器での採用が加速することになった。
例えば、米マイクロソフトは2017年5月、「Always Connected PC」と呼ばれる構想を発表している。同社のPCにLTEモジュールとeSIMを搭載し、いつでも通信できるようにするという構想だ。ユーザーは訪れた国のキャリアのモバイルデータ通信プランを選択し接続できるので利便性が向上する。
今、最も売れているeSIM搭載端末といえば、「Apple Watch Series3」が真っ先に挙げられるだろう。こちらもユーザーが任意のキャリアを選択し、回線契約の手続きを行うことができるが、アップルの場合はAppleSIMという独自仕様を用いている。
国内ではNTTドコモが2017年春夏モデルのタブレット端末「dtab Compact d-01J」にeSIMを採用した。ドコモがeSIMで目指したのはオペレーションの簡略化だ。
従来のSIMカードでは、台紙からの折り取りやデバイスへの差し込みといった手作業が発生していた。一方、eSIMの場合はこうした手作業なしに、端末の電源を入れ、初期設定の簡単な操作だけでプロファイルを設定できる。その結果、「ショップ店頭のスタッフの負荷が軽減される」とプロダクト部 第二商品企画担当部長の横内禎明氏は説明する。
簡単に開通作業が行えるようになることで、将来的には、イベント会場や電話教室のような場所に縛られない、自由度の高い販売方法も期待される。