2018年までの実用化めざす川原氏のグループでは「監視」「分析」「制御・復旧」の3つのフェーズに分けてネットワークの知能化を図っている。フェーズごとに複数の要素技術を開発しており、図表に示したのはその一例だ。
図表 ネットワーク知能化のための技術とその構成要素の一例[画像をクリックで拡大]
なかでも、早期の実用化が見込まれているのが「異常検知技術」だ。
ネットワーク機器のログ情報などからネットワークの正常な状態をAIに学ばせたうえで、“いつもと違う”状態が発生したことを検知させるというもの。昨年夏から開発に着手したが、想定以上のスピードで成果が上がっているという。
すでに商用ネットワークのデータを使った検証の段階に入っており、通信トラヒック品質プロジェクトマネージャの髙橋玲氏によれば、「実際のネットワーク運用事例に当てはめても、かなり良い結果が出始めている」ため、「早ければ今年・来年辺りから部分的に使っていくことになる」。実用化の第1ステップが始まろうとしているのだ。
川原氏によれば、研究の鍵はAIへの「データの渡し方」にあるという。
機械学習は単に多くのデータを使えば精度が上がるわけではない。AIが効率的に学習するために、故障や輻輳の発生に関わるメカニズムを解明するのに必要なモデリングや特徴量の抽出を行ったうえで機械学習に適用する。
「長年ネットワークを扱ってきた我々の知識やノウハウがこの学習データ抽出に生かされている」と同氏は話す。言ってみれば、高度な技術を有するオペレーターのノウハウや知識をAIに学ばせるということになる。その技能をより広い範囲で活用できるようになるのだ。
他の要素技術でもアプローチは同じだ。NTTが培った知識・ノウハウを活用して早期の実用化を目指す。
ユーザーの行動モデルも学習もう1つ、研究開発のポイントがある。データ資源の幅を広げることだ。
開発のスタート時点では、機器のログ情報やトラフィック、通信品質など、これまでの人手による運用と同じデータ資源を使っていたが、現在では外部情報の活用に関する研究開発も始めている。例えば、ユーザー行動の情報や気象データだ。
髙橋氏は「本当の意味でプロアクティブな制御をやるには、ネットワークに変化が起きてからでは遅い。外部情報を使えば、それ以前の予兆も検知できる」と話す。
想定している利用シーンの1つが、大規模イベントだ。人が集中してトラフィックの大量発生が予想される場合、その発生エリア・時間推移を予測して、事前に経路制御やリソースの配置変更を行う。
例えばスポーツイベントにおいて、競技の開催場所・時間に応じて人の移動を予測することに加え、ネットワークの使い方も分析・判断の材料にする。競技の開始前はチャット/SNSのメッセージ交換が多く、競技中は動画像の投稿が増えるため上りのトラフィックが増加するといったユーザー行動をモデル化し、プロアクティブ制御に活かしていく考えだ。