高齢化によって、多くの業界が後継者不足という課題を抱えている。特に深刻な状況にあるのが農業だ。
農林水産省の調査によると、2015年の農業人口は209万人と、5年前から一気に2割も減少した。しかも農業人口の内訳は65歳以上が64%を占めており、39歳以下は7%に満たない。若手就農者の育成も進んでおらず、15~29歳は6万3000人と、5年前に比べ2万6000人も減っている。
ただし、光明はある。家族経営に比べて労働環境が良く収入も安定しやすい農業法人は5年前に比べて26%増加した。大規模化も進んでいる。農家1戸当たりの耕作地面積は16%増の2.5ヘクタールになった。「日本の農業」を崩壊させないためには、農地集約を進めつつ、人材育成を加速させる必要がある。
鍵は、熟練農家の技術を可視化し、それを継承することだ。農業のように知識や経験、ノウハウが極端に属人化していると、それを農業関係者間で共有したり、新規就農者の教育や支援に活用するのが非常に難しい。
農作業を数値で裏付け
各産地ごとにコミュニティを形成して情報を共有する役割を担ったり、新規就農者の育成に取り組む組織としては、地方自治体の農林課やJA、農業大学校などがある。そうした機関がいま注目しているのが、いわゆる“農業IoT”だ。
センシングによって圃場の環境を可視化し、適切なアクションを取るために使うほか、環境変化と栽培記録のデータを保存・分析し、共有することもできる。生産性を向上させるのに使うだけでなく、これまで経験と勘に頼っていた農作業を数値によって裏付け、新規就農者の教育に使おうという取り組みも始まっている。
そのような農業IoTの実例は全国各地にあるが、なかでも、農家の経験と知恵を次代に伝えるという観点で実績を上げているのが、ソフトバンクグループのPSソリューションズが提供する「e-kakashi」だ。同社のCPS事業本部・本部長を務める山口典男氏は次のように語る。
e-kakashiのダッシュボード画面。センサーノードの設置箇所ごとに、温湿度や日射量などをグラフィカルに表示する |
「“スゴイ農家”やJA等が、各地域に根ざした農業技術を持っている。それを高め、維持し、伝えていくには、ノウハウを数値化してデータに基づいた科学的なアドバイスとして生産者に伝えなければならない。e-kakashiはそのためのツールとして使われている」
PSソリューションズ CPS事業本部 本部長 山口典男氏