「今、非常に大きな変革の時代に差し掛かっているのは事実」――。私たちの働き方の未来について、こう指摘するのはベストセラー『「超」整理法』シリーズなどで著名な早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問/一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏だ。
ITの進展に伴い、我々のワークスタイルは大きく変化してきたが、野口教授によれば今後さらに劇的な変革が待ち受けている。それを引き起こすのは、「人工知能(AI)」と「ブロックチェーン」の2つの破壊的技術だ。
9月14日に開かれたイベント「ワークスタイル変革Day 2016」において、「ITの進展と働き方の改革」と題して行われた野口教授による基調講演の概要をレポートする。
早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問/一橋大学名誉教授 野口悠紀雄氏 |
ITによる働き方改革に成功した国と失敗した国野口教授によれば、ITによる働き方の改革が始まったのは1990年代。「ITは場所をとらわれずに働くことを可能にした」が、この変化に「うまく対応できた国と、対応できなかった国がある」というのが同氏の見方だ。
うまく対応できた国の代表は、アメリカとイギリスである。例えば米国企業は、インターネットの普及により、通信コストが限りなくゼロに近付いたことを活用し、国際的な分業を進めた。企業内の一部の仕事を、インターネットを使ってアウトソースし始めたのだ。アウトソースする業務は当初、コールセンターなどの単純な仕事が中心だったが、次第にデータ処理や会計処理、法律事務など、かなり専門的な仕事についてもアウトソースするようになる。
「これがアメリカの就業人口を、単純な仕事から高度な仕事に移行させるうえで、非常に大きな意味を持った」と野口教授。実際、サービス産業の生産性を比較すると、アメリカやイギリスの伸びは顕著な一方、日本は低い水準にあるという。
インターネットを活用した分業という、ITによる働き方改革を推し進めたかどうかが、この差を生んだ大きな一因というわけだ。
もちろん、この背景には言葉の問題もある。米国企業の主なアウトソース先は最初がアイルランド、次にインドだった。ともに英語国であり、言語の問題はない。
ただ、野口教授は「英語の問題は確かにあった」としながらも、次のように指摘した
「日本の地方都市の衰退が激しいことは改めて申すまでもないが、その大きな理由は地方に就業の機会がないからだ。ただし、ITを使えば、場所に制約がないわけだから、東京の企業が仕事を地方にアウトソースすることは十分可能だ」
にもかかわらず、米国企業で進んだような、ITによる場所にとらわれない働き方が進まなかったのは、「日本の企業文化や、仕事の進め方に一番の原因があったと思う」。
例えば、製造業もそうだ。90年代、米国の製造業では、水平分業化が進展した。製品開発や販売は自社で行うが、製造は他社に任せるファブレス企業の成功例が次々と登場したのだ。例えばアップルである。
「ところが、日本の場合、水平分業に対応することができなかった。その理由は『日本が水平分業を知らなかったから』ではない。そうではなく、『工場をなくせば、工場の労働者が失業してしまう。それはできない』という企業文化が大きな理由だ」