インターネットイニシアティブ(IIJ)は2016年1月19日、MVNOに関する記者説明会を開催した。
08年に法人向けに「IIJモバイルサービス」を開始した同社は、その後、LTE対応や音声付きSIMの提供などサービスを拡充。現在はNTTドコモとKDDIの回線を使ったマルチキャリアMVNOとして個人・法人の両分野でサービスを展開する。
昨年12月末には、MVNOのモバイルサービスの総回線数が100万回線を突破した。
IIJは昨年、NTT東西の光コラボを利用した「mio光」の提供開始、利用料金据え置きでスペックアップできる「データプランスペックアップ」、MNP転入時の利用不可期間をなくす「おうちでナンバーポータビリティ」などサービスの強化を図った。また、パートナーも拡大しており、音声通話サービスで即日開通する店舗はビックカメラグループで59店舗、イオングループで214店舗などとなっている。
今後のMVNOビジネスについて、ネットワーク本部モバイルサービス部長の安東宏二氏は「コンシューマ市場はWe販売とパートナーの販路を通じた販売で自ブランドのシェアを拡大したい」と語った。他方、法人市場については、セキュリティやクラウドなどと組み合わせた法人ソリューションとして提供する。併せて、システムやネットワークなどインフラも拡充するという。
説明会では、昨年末の「携帯電話料金タスクフォース」について、MVNO事業者の立場からの解説も行われた。
タスクフォースでは、「HLR/HSS(Home Location Register/Home Subscriber Server)」と呼ばれる「加入者管理機能」がMVNO振興の一環として、「MVNO事業化ガイドライン」の「開放を促進すべき機能」に盛り込まれる予定だ。
MVNOにHLR/HSSが開放されるとどうなるのか。ネットワーク本部技術企画室の佐々木太志氏によると「MVNO事業に必ずしも必要なものではない」が、MVNO事業者が独自にSIMカードを調達・発行できるようになれば、柔軟なサービスのデザインが可能になるという。
一例として、IIJmioのSIMカードは現状、海外の通信事業者には「ドコモのSIMカード」と認識されてしまい、ドコモの国際ローミングサービスを利用することになる。しかしMVNO独自のSIMカードであれば、現地の通信事業者と独自に契約し、現地の通信サービスを提供することも可能という。
ただ、HLR/HSSの開放には、いくつかのハードルがある。
その1つが、開放にかかるコストが膨大になること。数百万円や数千万円ではおさまらず、数十億円規模に達するとも言われる。多額の投資が必要なHLR/HSSの開放は、低廉な料金を指向するMVNOのビジネスモデルとは親和性が高くないことも課題だ。また、海外の通信事業者が日本に参入しやすくなることで、日本の通信業界の空洞化も懸念されるという。
すでにHLR/HSSの開放が実現している欧州では、独自にSIMカードを調達・管理するするMVNOは「Full MVNO」と呼ばれる。
Full MVNOは既存ビジネス以外に、「IoT」や「国際」など従来の枠を超える新規事業までビジネスを拡大し、多額の設備投資をカバーするケースが多い。佐々木氏は「Full MVNOはマーケット拡大が一つの鍵になる。難しい舵取りだが、日本でも既存のMVNOビジネスを超える事業領域チャレンジするMVNOの登場が期待される。我々も目下、研究している」と語った。