2025年5月28日に開幕した「ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP)2025」の総務省ブースでは、2024年度に実施された研究開発事業の成果発表が行われている。
「ワイヤレスジャパン×WTP 2025」の総務省ブース
3D点群データ量を20分の1に圧縮しリアルタイム伝送
「戦略的情報通信研究開発事業(SCOPE)」では、12件の開発課題を展示。このうち、KDDI総合研究所とシャープによる「3次元空間データの無線伝送に向けた高能率圧縮技術の研究開発」は、情報量が膨大になるLiDARなどの3D点群データをモバイル回線で伝送できるレベルに圧縮し、遠隔地においてリアルタイムの確認を実現するものだ。
説明員によれば、「従来は3D点群データをリアルタイムに確認するという発想がなかった」。専門知識を必要とする点検などの際には、技術者が現地に赴くか、SDカードなどの物理メディアで3D点群データをやりとりしていたという。
そこで同技術は、3D点群データの国際標準規格「G-PCC」に対応したエンコーダーを開発。品質を維持したままデータ量を約20分の1に削減し、リアルタイム伝送を世界で初めて実現した。
北海道の山間地である渡島トンネルの建設工事で行われた実証では、エンコーダーを搭載した4足歩行ロボットとドローンでトンネル内の3D点群データを取得。データを独自に構築したLTE網とStarlinkによって伝送し、東京の事務所でリアルタイムに点検作業を行うことができた。
ブースではiPhoneを用いた3D点群データのリアルタイム伝送のデモも実施している。今後、デジタルツインを活用した災害対策やスマートシティ高度化などへの応用が期待されているということだ。
3D点群データのリアルタイム伝送のデモ。右側のiPhoneにはエンコーダーが搭載されており、データが左側のノートPCにリアルタイム伝送されている
「フェデレーテッド・ラーニング」でAMRの走行を効率化
名古屋大学、国立情報学研究所(NII)、電気通信大学、大阪大学による「走行型ロボット群の自動運転のための通信データ量削減と信頼性向上機能の実現」もSCOPEの成果の1つ。端末が取得した情報から学習モデルのみをアップロードする「フェデレーテッド・ラーニング」と呼ぶ手法により、通常の機械学習(ML)より通信量を大幅に削減。情報更新を効率的に行う技術と組み合わせ、自動移動ロボット(AMR)の走行における通信量の削減に成功した。
通信データ量削減と信頼性向上機能を実現する技術を搭載した自動走行ロボット
アンテナ技術とML/AI活用で無線LAN利用効率を4.6倍に
また、「電波資源拡大のための研究開発」では開発課題が5件展示されている。日本電業工作、ブレインズ、リョウセイ、シャープの4社による「アクティブ空間無線リソース制御技術に関する研究開発」はその1つだ。
端末数の増加により電波干渉は深刻化している。この技術では無線LANを快適、効率的に活用するために、まず「IRS(Intelligent Reflecting Surface)」と呼ぶ反射版による手法を検討した。IRSは反射角度を意図的に変更できる点に大きな特徴があり、これに対象となる端末の位置を推定する技術を組み合わせ、干渉の低減と不感地帯の解消を実現したという。
「IRS(Intelligent Reflecting Surface)」とアクティブアンテナ
そして、「電波環境を使い切る」(説明員)ための技術が「レイヤ間連携アクセス制御技術」だ。VR/XR、映像伝送など、使用するアプリケーションの特性と、2.4GHz/5GHz/60GHzといった無線LAN電波の特性の最適な組み合わせをML/AI活用によって求めたうえで周波数を選択することで、ユーザーの収容数が大幅に向上した。
IRS技術とレイヤ間連携アクセス制御技術の双方を統合することで、従来方式と比較し平均ユーザー(端末)収容数は4.6倍に改善した。「AGV、ロボット、カメラなどの無線機が多数稼働する工場など、特定空間での活用が期待できる」と説明員は展望した。
これらのほか、全国の高専生による「高専ワイヤレステックコンテスト2024(WiCON2024)」の上位チームによる成果もパネル展示されている。また、これらの成果の発表会が会期中にセミナー会場Cで開催される。「電波資源拡大のための研究開発」は会期初日の28日13:00から、 「戦略的情報通信研究開発事業(SCOPE)」は2日目の29日11:00から、「高専ワイヤレステックコンテスト2024(WiCON2024)」は3日目の30日13:00から。