ワイヤレスジャパン2015が行われている東京ビッグサイトでは、「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2015」(WTP)も同時開催中だ。どちらかに登録すれば、両方の展示を見て回れる。ビジネス寄りのワイヤレスジャパンに対して、WTPは今後実用化されるような最先端技術に力が入れられているのが特徴だ。
例えば、KDDI研究所のブースでは、「第5世代のスポットネットワークの活用技術」という新技術が紹介されていた。2020年以降の商用サービス開始が見込まれている5Gに向けた新技術である。
WTPのKDDI研究所ブース |
5Gでは、広帯域の電波を確保できるミリ波帯の活用が想定されている。これによりミリ波帯では、最大1Gbps以上の高速通信を実現できる見込みだが、一方でミリ波帯の難点は、電波が遠くまで届かないことだ。つまり、ミリ波帯は、広範囲なエリアをカバーするというより、スポット的なエリア展開にならざるをえない。
こうした特徴を持つミリ波帯を有効活用するためには、現在のLTEとうまく協調動作させる必要があるが、そのために開発されたのがこの「第5世代のスポットネットワークの活用技術」となる。
KDDI研究所は、60GHz帯通信とLTEを協調させることで60GHz帯の高速通信を有効活用する技術を開発し、実際にAndroid端末上で動かすことに成功した。60GHz帯のスポットにいる間、できるだけその高速通信のメリットを有効活用できるようにするための技術である。
第5世代のスポットネットワークの活用技術」の概要 |
この技術は、具体的には次の2つがポイントになっている。1つは、コンテンツを先回りして基地局にダウンロードしておくシステムだ。
ミリ波帯では1Gbps以上の高速通信も可能になる。ここまで無線区間が高速化すると、基地局から先の有線ネットワークがボトルネックになってくる。そこで、ユーザーの将来の行動を先回りし、あらかじめそのユーザーがダウンロードするであろうコンテンツを、そのユーザーの近くのミリ波帯の基地局にダウンロードしておくのである。
ユーザーがそのミリ波帯の基地局のエリアに入ったときには、すでに基地局にコンテンツがあるから、有線区間のスループットがボトルネックになることなく、1Gbpsクラスの無線通信でコンテンツをダウンロードできる。
ブースではAndroid端末を使ったデモも行っている |
そして、もう1つのポイントは、CCN(Content Centric Networking)技術の活用だ。説明員によると、「TCP/IPに置き換わる」新しいネットワークアーキテクチャがCCNである。
現在のTCP/IPベースのインターネットなどでは、IPアドレスにより通信を行っている。これに対して、CCNではコンテンツ名でリクエストを行う。
従来のネットワークアーキテクチャは、サーバーとの接続性を提供するのが役割。一方、CCNは、コンテンツの取得を目的としたアーキテクチャだ。このため、これまで複数の種類のネットワークを利用する際に問題となっていた、サーバーとの接続性やネットワーク間の切替の必要がCCNにはない。
その結果、ミリ波帯のエリアに入った途端、コンテンツの高速ダウンロードを開始できるのだ。
また、CCNのアーキテクチャでは、コンテンツはルーターなどに分散してキャッシュされており、遠くのサーバーまで行かなくても、近くのルーターに目的のコンテンツがキャッシュされていれば、そこからすぐにダウンロードできる。
CCNの仕組み |
最近、データ指向型ネットワークやICN(Information Centric Network)などと呼ばれるデータ中心型のネットワークアーキテクチャに関する研究開発が世界各地で活発になっているが、CCNはその実現技術の1つとのこと。トラフィック量やサーバー負荷の抜本的な軽減に役立つと期待されている。
ただ、「TCP/IPに置き換える」というと、その実現性に首をかしげる向きもあろう。しかし、「CCNはIP上で動作する」(説明員)というから、導入のハードルがものすごく高いわけではないようだ。
KDDI研究所のブースでは、このほかにも「反射で広がる車輛内ミリ波通信」や「スマートフォンアプリ向け屋内測位エンジン」の展示・デモが行われている。