「日本はM2Mで勝利できる。このことをもっと意識すべき」――野村総研の桑津氏に聞くM2Mビジネスの現状と課題

M2Mが本格的に成長するには何が必要なのか。野村総合研究所(NRI)主席コンサルタントの桑津浩太郎氏にM2M市場の課題と解決策、そして日本企業の可能性について聞いた。


――M2M市場の現状について、どう見ていますか。

桑津 M2Mは過去に何度もブームになりましたが、現在の動きには以前のそれとは違っている点があります。

まず、社会インフラとICTが接点を持ち始めた流れに沿った動きであるということ。スマートな社会の創造にICTを使おうという流れですね。従来型の携帯電話市場が成熟してきたことも背景にあります。今後も技術開発や高速化は進み、新たなサービスも発展するでしょうが、加入者数やARPUがこれまでのような勢いで伸びることは考え難い状況です。

――携帯電話市場の飽和に伴い、「人からモノへ」シフトしようという発想と取り組みは以前からありましたが、ビジネスとしてはM2Mはなかなかブレイクしません。

桑津 キャリアの従来ビジネスとM2Mマーケットの違いが大きいのです。携帯やスマートフォンのように月額4000円のARPUが得られるものではなく、ビジネスの規模感として、1つ1つの粒はかなり小さくなります。

しかも、M2Mマーケットはものすごく多様性をもった市場です。携帯電話は、みな同じ端末を使っていて、管理手法も同じ。それでいて単価は、新興国を除けば月額10米ドル以上もらえます。例えるなら羊の群れのようなもので、管理が効率的にできます。つまり「牧場型」なのです。

対してM2Mは、まるで「動物園」です。自動車や医療機器、建設機械、工作機械、自販機と、管理する主体が非常に多様で、牧場のように効率的にマネージするのは難しいのです。

図表1 既存ビジネスモデルとM2Mの比較
既存ビジネスモデルとM2Mの比較

M2Mの短期的な勝者は明らかに「ユーザー」

――今後もまだまだ時間がかかるのでしょうか。

桑津 時間はかかりますが、突破口は見えてきました。M2Mは社会にとって間違いなく良いことであり、ユーザーである企業側は大きなメリットを得られることがわかってきました。つまり、M2Mビジネスの短期的な勝者は、明らかにユーザーなのです。これが、市場を成長させる最も重要なポイントです。

通信キャリアや通信機器メーカーといった供給側は、携帯ビジネスに比べて単価が安く管理も難しいものに手を出さざるを得なくなります。従来のビジネスの仕組みに上積みしていけるモデルではありません。短期的にはユーザー側、M2Mを使う企業やSIer等が牽引して市場を拓いていくことになるでしょう。

――供給側に、大きな転換が求められるということですね。

桑津 そうです。M2Mビジネスの構造的な課題は大きく2つあります。1つは、供給側にとっては短期的に大きく儲かるモデルにならないこと。さらに、M2Mの特性としてトラフィック量が非常に少なく、高速・大容量なネットワークは必要ありません。固定通信を追い抜こうと進化してきた方向性ともズレることになります。

もう1つ重要なのが、エンターテイメントではないという点です。iPhoneと違ってM2Mは、発売日に行列ができたり、“買って友達に自慢しよう”というインセンティブが働かないマーケットです。ソフトバンクが頑張って1年でiPhoneを普及させたようなやり方は通用しません。

M2Mの有望分野と考えられているのは自販機やエネルギー、住宅、そして自動車やヘルスケアなどです。したがって、家を建て替える、道路を作り変える、クルマを買い替えるといったサイクルと同期しければ成立しません。10年刻みのビジネスになるわけです。

社会を便利に、安心安全にするためには間違いなく寄与し、便益はすごく高い。しかし、華がない。そういうビジネスだということです。

月刊テレコミュニケーション2014年3月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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