「MRの人数は14番目に多いのに……」
エーザイ自身がiPadを導入したのは2010年10月のことだ。まずは80台をトライアルとして導入した。
エーザイのiPad導入の歴史 |
「米国で先行発売されたiPadを友人に見せたもらった瞬間、『MRを変えるのはこれだ』と直感した。日本の製薬会社で最初にiPadを採用しようと考えたが、大塚製薬さんが7月にiPadを導入したので、うちは2番目。なかなか2番手は覚えてもらえない」と言って聴衆の笑いを誘った開發氏。エーザイでは現在、1900台のiPadを活用している。
エーザイがiPadを導入したのは、やはりMR力を向上するためだ。開發氏は、MR力を「量×質」という言葉で説明するが、医師への訪問回数など、“量”のほうは7年前のプロジェクトによって大きく改善できていた。
当時、エーザイの売上規模は業界7位くらい。これに対して「MRの数は大体14番目くらいだったので、世間では『非常に営業生産性がいい』といわれていた」という。
ところが、あるアンケート調査の結果が、改革を迫ることになる。「どの製薬会社がたくさん来ていますか」という医師を対象にしたアンケートにおいて、「14番目の人数のMRがいながら、エーザイの順位は25位だった」のである。
「これはまずい」とMRの活動量を向上させるためのプロジェクトがスタート。各MRの訪問活動状況を「青信号」「黄信号」「赤信号」で評価して見える化するシステムなどの導入により、半年後には順位は7位に上昇。7年が経過した今も7位くらいをキープしているという。
がん領域への参入のため「MRの質を3倍にも4倍にも」
このように“量”の向上には成功したエーザイだが、総合的なMR力を高めるためには“質”も改善していく必要がある。しかも、エーザイには、急いで“質”を向上させなければならない理由があった。がん領域への新規参入を目前に控えていたからである。
「がんの領域は非常に高い質が要求されるため、MRの質を3倍にも4倍にも高めなければならない」。そのための手段として選んだのがiPadだった。
「私がこうしたツールを導入するときに一番重要だと考えるのは、目的がぶれないこと。つまり、一点突破。我々の一点突破は、がんの専門医の信頼を獲得するため、医師からの多種多様なニーズに瞬時に応えることだった」
エーザイのiPad導入の目的 |
エーザイも他の製薬会社と同じく、第一世代の電動紙芝居、第二世代のCLMを実践しているが、同社のiPad活用が業界内外から注目を集めるのは他でもない。この一点突破を成し遂げるため、ユニークなiPad活用を行っているからである。
後編ではいよいよ、ビッグデータまで取り込もうというエーザイならではのiPad活用法と、開發氏が明かすiPad導入を成功させる秘訣を紹介する。