グローバルに事業を展開する日本企業にとって、海外拠点における通信インフラの整備はDXの観点からも重要だ。なかでもローカル5G等のワイヤレス技術の役割は大きい。
では日本のグローバル企業が海外拠点にローカル5Gを導入し、実際に運用できるのか。その答えはもちろんYESだ。マルチメディア振興センター(FMMC)調査研究部 研究主幹の飯塚留美氏は、「国によってローカル5Gに割り当てられている周波数が異なるという点は理解する必要があるものの、海外だからといって日本での導入と大きな違いがあるわけではない」と語る。
京セラみらいエンビジョン(KCME)ネットワークソリューション事業部キャリアソリューション部 5Gソリューション推進課 インテグレーション係責任者の米良祐氏も、「海外でローカル5Gを導入する際の技術面なハードルは特にない。5Gはグローバルな規格なので、どこの国で導入しようと同じだ」と述べる。
とはいえ、日本のグローバル企業が海外拠点にローカル5Gを構築した事例は少ない。海外の事例を参考にしつつ、各国特有のローカル5G制度について理解することが、今後の円滑な導入・運用のカギとなる。携帯電話事業者(MNO)が構築・運用を担うプライベート5Gの事例も含め、詳しく見ていこう。
図表1 国別プライベートネットワーク導入企業数
米国ではエンタメ領域で活用進む
米国のプライベート5Gでは、国防総省等に配分されている3.5GHz帯を市民ブロードバンド無線サービス(CBRS)として民間企業が使用することができる。ユーザー企業は、優先アクセス免許(PAL)を取得するか、一般許可アクセス(GAA)ユーザーとしてSAS(周波数アクセスシステム)に登録することでプライベート5Gを構築できる。
プライベート5Gのユースケースとしては、例えばアメリカ海軍はサンディエゴ海軍基地にプライベート5Gを構築し、倉庫内の荷物の位置・状態をリアルタイムで把握・管理できるようにしている。「公共セクターでプライベート5Gのユースケースを創出し、それを民間に転用する道筋を描いている」とFMMCの飯塚氏は説明する。
また、エンタメ・スポーツ領域で特にローカル5Gの導入が進んでいる点が米国の特徴だ。CBRS帯を使用した例ではないが、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)に所属するカロライナ・パンサーズの本拠地「バンク・オブ・アメリカ・スタジアム」では、プライベート5Gを活用した顔認証入場システムが導入されている。
また、一部のNHL(ナショナル・ホッケー・リーグ)アリーナ(試合会場)では、プライベート5Gを構築し、試合や練習の映像を活用して選手のプレーを分析・改善する「ビデオコーチング」等に活かしている。どちらの事例もベライゾンが提供するプライベート5Gソリューションを活用している。