ウェアラブルデバイスを利用した情報の収集や、装着型ロボットによる筋力や持久力の増強など、人間の能力を拡張する人間拡張技術は、ディープテックの一分野として注目度が高い。
この人間拡張の取り組みのフロンティアの1つに、従来の情報通信技術では不可能な“感覚”の伝達がある。
NTTドコモは、人間の五感の共有や感情の伝達を支える6G時代のプラットフォームを目指し、2022年に「人間拡張基盤」の開発を開始した。
慶應義塾大学大学院の特任教授も務めるNTTドコモ モバイルイノベーションテック部の石川博規氏は、この人間拡張基盤について「潜在意識を顕在化させたり、顕在化していても伝えることができていない領域を人間拡張技術で広げ、コミュニケーションの枠を広げることを軸にしている」と説明する(図表1)。
図表1 人間拡張技術×コミュニケーション
ドコモが目指すのは、まず知覚の拡張による、顕在意識における伝えられる範囲の拡張だ。触覚、味覚、嗅覚といった、非言語的な感覚を“そのまま”伝える。その次には、認知機能を拡張し、潜在意識も伝えられるようにすることも視野に入れている。これを「伝えるから伝わる、解り合うへ」への変化だと石川氏は表現する。
NTTドコモ モバイルイノベーションテック部 慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 特任教授 石川博規氏
こうした拡張の先には、人間の身体や感覚をあらゆる場所で共有するという新しい体験の提供がある(図表2)。五感や感情の共有はもとより、熟練の職人が持つスキルをデータ化し、体験者個人に合わせて変換したり、1人の身体を複数の地点に存在させたりといったサービスが構想されている。実現には、個人個人の感じ方や五感の情報をクラウド上に蓄積し、それら大量のデータを重畳し瞬時に送る必要があるため、6GやIOWNの高速大容量、低遅延のネットワーク性能が必須となる。