1990年代末に検討が始まった「惑星間インターネット」
宇宙での活動において通信は欠かせない要素だ。しかも、人類の活動領域が「惑星間」に広がれば、現在のように、人工衛星や探査機等が地上局と1対1の関係で通信するのでは、需要が満たせなくなるのが確実である。
私たちが今使っているインターネットのように、月面や火星の基地が衛星や探査機を介して地上と相互接続し、情報を共有できる新しい通信インフラが必要となるだろう(図表1)。
図表1 惑星間インターネットのイメージ
そんな未来の通信インフラを実現しようとする取り組みが、実は1990年代末から続けられている。「惑星間インターネット(Interplanetary Internet)」だ。
JAXA(宇宙航空研究開発機構)追跡ネットワーク技術センター 主任研究開発員の鈴木清久氏によれば、その最初の国際標準がISOで策定されたのは2016年。「惑星間インターネットという概念は、インターネットを生み出した1人であるヴィントン・サーフ氏が中心となり、1990年代末に検討を開始した。そこから20年弱を経て、中核となる通信プロトコル・仕様を日米が中心となって策定・検証し、最終的にISO規格として制定した」
JAXA(宇宙航空研究開発機構) 追跡ネットワーク技術センター 主任研究開発員 鈴木清久氏
2024年2月にスペースXが打ち上げたNASAの地球観測衛星「PACE」では、通信装置の一部としてその技術が実装されるなど、近年、国際的にも実用化に向けた実証・実験活動が活発化しているという。
宇宙の経済・社会インフラに
惑星間インターネットは、現在、人工衛星や探査機といった宇宙機で使われている通信システムとどう違うのか。
宇宙機と地上局との間で行う通信は、ミッションを達成するために行われる。地球観測衛星を例にとるなら、地球のある事象に関する観測データを衛星上で取得して、地表に点在する地上局へ伝送するという目的のために通信機能を準備する。
ただし、宇宙機と通信可能な地上局との位置関係は時々刻々に変化するので、通信はいつでも行えるわけではない。JAXAは海外にも地上局を配置し、「宇宙機から地上へデータを下ろす機会をなるべく増やしている」(鈴木氏)。そのうえで、ミッションごとに地上局との間でデータ通信を行うスケジュールを組んで、その都度、通信リンクを確立している。
現時点では、宇宙空間での人類の社会・経済活動は限定的であるため、こうした方法でも需要を満たせるが、本格的に月面など惑星間へ人類の活動圏が拡大するとそうはいかない。
対して、惑星間インターネットでは、私たちが普段使っているインターネットのように「宇宙空間に定在し、国際的に協調して、共通のインフラ・通信規格を共同利用することが想定されている」(同氏)。そのため、利用者は新たなネットワークを整備しなくても、アクセスポイントを設置するだけで宇宙機や惑星上の施設と通信できる。