(前編はこちら)
「1人の同じ患者の在宅ケアに携わっているのに、『1年間、一度も他のケア関係者を見たことがない』といったこともある」
在宅ケアは、医師だけではなく、ケアマネージャーやホームヘルパー、訪問介護士など様々な人たちの力によって成り立っている。より良い在宅ケアサービスを提供するうえでは、当然、これら関係者間の密接な連携が重要であるが、遠矢氏によれば現実はそう簡単ではないらしい。
密接な連携が難しい理由の1つは、在宅医療や訪問介護などのサービス提供者が、それぞれ別々の事業体となっているからだ。同じ事業体、あるいは同じ事務所で働く同士であればコミュニケーションも比較的容易だが、そうではない。
また、患者の自宅などの“現場”で顔を合わせることもほとんどない。これは時間をできるだけ有効活用できるよう、あえてサービス提供時間をずらしているためだ。例えば診療の時間とリハビリの時間が重なると、どちらか一方に待ち時間が発生してしまう。患者が1カ所に集まる病院と比べると、そもそも在宅ケアの効率性は著しく悪い。少しでも効率を上げようという工夫の結果、必然的に関係者が顔を合わす機会は減るのである。
とはいえ、もちろん連携のための策が何も講じられてこなかったわけではない。従来は、ケア現場に置かれた1冊の大学ノートが、関係者間の重要な情報共有手段として活躍してきた。しかし、大学ノートの課題は「紙情報のため、その場に行かないと見れないし、情報を二次利用、三次利用することもできない」ことである。
そこで、遠矢氏等はここでもICTの活用によって課題解決を試みた。「地域のいろいろプレイヤーが見ることができる、いわばネット上の掲示板みたいなもの」だというクラウド型地域連携システム「EIR」を構築したのだ。例えばEIRはどんなふうに活躍しているのか、その具体例を示したのが下の写真だ。
例えば、褥瘡(じゅくそう:いわゆる「床ずれ」)が悪化している患者について、こんな風に関係者たちがクラウド上でやりとり |
EIRにはケータイやスマートフォンからも閲覧や書き込みが可能。現場に行かないと見れない大学ノートによるコミュニケーションと比べ、格段にスピーディな情報共有やディスカッションができるようになった。また、写真やPDFも添付できるため、伝達できる情報の量も大幅にアップしたという。
職務も別々、事業体も別々、事務所も別々、しかも顔を合わせることもほとんどない――。しかし、その患者のQOL(Quality Of Life)の向上という共通の目的を持った人たちが、スマートフォンやクラウドの活用によって、よりチームとして強力にコラボレーションしていけるようなったのである。