理由その2:日本のICT産業に唯一残された活躍の舞台
一方、ICT分野における昨今のグローバルコンペティションを勘案すると、ネガティブな背景から日本企業にとってのM2Mの本質的な意味合いを定義することも可能だ。
コンシューマーマーケットを例にとると、世の中を席巻しているのは、Facebook、グーグル、アップルといった北米に端を発するプレーヤーである。彼らが描き出す世界観がそのままインターネット利用の世界全般の秩序となっており、彼らの事業ドメインで真っ向から戦える日本企業は存在していないのが現状だ。
携帯電話1つとってみても、世の中の潮流はAndroidとiPhoneに二分されており、日本企業の強みや精神を受け入れる土壌は存在していない(図表2)。
図表2 OS別スマートフォンシェア推移 |
また、キャリアの通信インフラを支える分野に目を向けても、そこはファーウェイを代表格とする中国系企業とエリクソンに象徴される欧州系企業の独壇場となっている。日本国内で圧倒的シェアを誇るNECや富士通もグローバルマーケットではニッチ分野を除いてほとんど戦えていない状況だ(図表3)。
図表3 主要ネットワークベンダーの年間平均成長率(2007年~2010年)と売上比較 |
法人分野を対象とするシステムインテグレーションの領域も、主要な業務パッケージやサービスは、SAP、オラクル、セールスフォースといったプレーヤーが支配的な立場を確立させており、日本企業が個性を発揮できているのは、対極的な考え方に基づく、オーダーメイド形式の“宮大工型”SIが受容される世界となっている。
情報システムを作り上げるという観点に立脚すれば、非常に高度な力量が求められる世界であり、それ自体が否定されるべきものではない。だが、効率的にグローバルスタンダードを導入するという世界的な潮流に対して真逆のスタンスとなるため、今後このような事業機会は縮小していくという見解が一般的となっている。
以上の点から、既存サービス/ビジネスの枠組みでは日本のICT産業が復権できる可能性は、どう楽観的に見積もっても非常に低いと言わざるを得ない。新たな活路を見出せなければ、日本のICT産業は海外プレーヤーの後塵を拝するパターンが定着化していく懸念が大きいと言えるだろう。
だからこそ、M2Mは、日本企業にとって譲れない戦いの場となるのだ。
従来ビジネスでは遅れをとったが、今後さらなる発展が期待されるM2Mの世界は、単純なプロダクトやパッケージで覇権を担えるような特定ユーザーに閉じた効果・効用を訴求するビジネスではない。従来にない価値を様々な技の組み合わせで追求する、まさに“宮大工”の領域で培った経験が発揮される異次元の世界だからである。