(左から)伊藤忠テクノソリューションズ 新事業創出・DX推進グループ DX企画推進部長代行の五十嵐知宏氏、Liquid AI社 共同創業者 兼 CEOのラミン・ハッサニ氏、ITOCHU Techno-Solutions America プレジデント 兼 CEOの田中匡憲氏
「線虫からヒントを得た新しいAIモデルだ」
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は2024年2月21日、エッジAIに関する記者説明会を開催。米Liquid AI社の「リキッド・ニューラル・ネットワーク(LNN)」をCTC 新事業創出・DX推進グループ DX企画推進部長代行の五十嵐知宏氏はこう紹介した。
Liquid AIは、「MIT(マサチューセッツ工科大学)発)」(五十嵐氏)のAIスタートアップだ。アカデミアでの研究を経て、昨年2023年に設立された。シード期でありながら、すでに約50億円の資金調達に成功しており、今回エッジAIソリューションの開発に向けた協業を発表したCTCグループもベンチャーキャピタルが運営するテック系ファンドを通じて投資している。
Liquid AIの概要
これまでのニューラルネットワークの多くは人間の脳を模しているが、前述のコメントの通り、Liquid AIのアプローチは違っている。
「LNNを作るにあたって、まず小動物の脳を研究した。小動物のニューロンがどのようにコミュニケーションしているかを研究し、それを数学的にモデル化。そして、そのモデルをベースに、機械学習モデルを作った」とLiquid AI 共同創業者 兼 CEOのラミン・ハッサニ氏は説明した。302個以下のニューロンで複雑なタスクをこなせる線虫の研究からスタートしている。
その結果、Liquid AIが実現したのは、最小限の処理能力で動作する機械学習モデルだという。一般的な機械学習モデルでは、約10万個のニューロンを必要とする自動運転に関する計算を、LNNは19個のニューロンで行えるとのことだ。
ChatGPTに代表される現状の大規模言語モデル(LLM)とは異なり、巨大なコンピューティングリソースを必要とせず、省エネ・省スペースなため、エッジデバイスにも容易に搭載できるというのがLNNの大きな特徴となる。ハッサニ氏によると、アメリカ空軍機の自動操縦に成功したこともあるという。
LNNのユースケース例。すでにデベロッパー向けパッケージと基盤モデルの2つの製品を提供している
リアルタイム学習が可能な点も特徴の1つだ。最近注目の生成AIの場合、学習済みモデルを作成するのに膨大な時間とコンピューティングリソースが必要なため、リアルタイム学習は基本的にできない。しかし、ニューロン数が少なく高効率なLNNは、「使いながら進化させられるフレキシブルなモデルだ」(ハッサニ氏)。
安全性・信頼性の高さもハッサニ氏は強調した。「我々が作りたいのは、巨大なブラックボックスではなく、ボトムアップの形で理解できるホワイトボックスのAIだ」
ニューロン数が少ない小規模なAIモデルのため、どのような論理でAIが判断を下しているかがブラックボックス化することなく、説明可能なAIモデルを作成できるという。