東電ホームサービス(THS)は東京電力の100%子会社で、関東地方と山梨県、静岡県の一部を管轄する。事業領域は大きく営業部門・配電部門・販売部門・内線調査部門の4部門に分かれ、このうち営業部門の主な業務は、入居時の電気の使用開始手続きや引越し時の電気料金の精算など、訪問係員が顧客の自宅を訪問して作業する「異動作業」を東京電力から委託を受けて行っている。
地域内の契約総数は2851万世帯に上り、こうした異動作業は年間450万件発生する。さらに、依頼を受けた当日に対応しなければならない緊急作業が年間100万件もあり、1日当たりに換算すると4000件、引越しの多い3~4月は7000件にもなる。
このような緊急作業では、迅速かつ的確な対応が求められるが、従来は、(1)東京電力カスタマーセンターが依頼を受け、同社技術サービスグループから該当地域のTHS「お客さまサービスリーダー」に電話で連絡、(2)お客さまサービスリーダーから委託先会社の管理者に電話で作業指令を出す、(3)管理者が訪問係員に個別に連絡して現在地や対応可否を確認する、という手順を踏んでいた。
この方法では、訪問係員の居場所確認などに時間がかかり、お客さまサービスリーダーが連絡を受けてから作業を担当する訪問係員が決まるまで平均3~5分はかかる。そこでTHSでは、2007年頃からシステムの見直しに着手した。
そうした中で出会ったのが、東芝ソリューションのモバイルCRMソリューション「ma-SQUARE」だったという。これはau携帯電話から企業のイントラネットにリモートアクセスできるKDDIの法人向けサービス「BREW link」を使い、外出先からの営業報告や保守サービス現場からの作業報告など、その場で必要な情報に携帯からアクセスできるようにするというもの。
「当社と同様の仕組みがすでにヤマト運輸で6万5000人規模で導入されていることから信頼できた。携帯電話のCメール(ショートメール)で出向指令を出せるという点も非常に魅力的だった」と、THS企画部副部長の竹宮好美氏は振り返る。
企画部長 柴藤英文氏 | 企画部副部長 竹宮好美氏 |
THSではma-SAUQREをベースにシステムを構築。09年8月から「お客さまサービスリーダーIT支援システム Osliss」として稼動を開始した。
図表 「お客様サービスリーダーIT支援システム Osliss」の概要(クリックで拡大) |
au携帯電話に搭載されているGPS機能を活用し、訪問係員の位置情報をリアルタイムに把握することで最寄りの訪問係員を抽出。Cメールで作業指示を出す。訪問係員は年齢層が高く、50代と60代が全体の36%を占めることから操作性を工夫している。
作業を指示するメール画面の「OK」ボタンを押して応答すると作業内容を確認する画面に移り、「OK」または「NG」を選ぶだけで諾否が回答できるというように、文字入力をやめ、すべて選択式を採用しているのもその一例だ。通信の暗号化や紛失時のリモートロックなどセキュリティにも配慮している。
また、電話では顧客対応中や車での移動中などに応答できないという不便さがあったが、Oslissは応答がないときには自動的にメールが再送され、10回再送してもつながらなければアラームが鳴る仕組みだ。
最大の目的であった対応の迅速化については、1件当たりの出向指令時間が3~5分から30秒へと大幅に短縮されたという。
THSのお客さまサービスリーダーが、PCのYahoo!地図上で訪問係員の居場所や作業の進捗状況を常時把握できるようになったためだ。作業が効率化されたことで、お客さまサービスリーダー1人で1日当たり100件以上の処理が可能になった。THSでは現在82人いるお客さまサービスリーダーを集中化し当面20人規模の削減を目標にしており、将来的にはさらなる削減を目指す予定でいる。また、一連のやり取りがログとして残る仕組みにより委託管理が適正に行われるようになり、作業漏れの防止など業務品質の向上も期待できるという。
システムの構築には総額で3億円の費用がかかったが、「効果を考えれば十分に利益は出ている」と、企画部長の紫藤英文氏は手応えを感じている。
他部門でのモバイル活用も検討
訪問係員が使用する携帯電話は、作業中に落としてもキズがつかない耐衝撃性能を備えているという理由から、カシオ計算機製の法人専用端末「E03CA」を採用している。携帯電話の他に、訪問係員は東京電力カスタマーセンターとの間で顧客の個人情報をやり取りするため、ハンディターミナルとモバイルプリンターを3点セットで持ち歩く。携帯電話とハンディターミナルの間はBluetoothで接続されているが、THSでは訪問係員の負担軽減のためにハンディターミナル機能を搭載した携帯電話の採用も考えている。
また今後は、カメラや音声認識機能を活用して作業品質の向上を図るとともに、配電設備の点検や電気設備の安全調査など他部門の業務へのモバイル活用も検討したいという。