「LPWAプロトコル間の争いを終わりにしたい。コンバージェンス(統合)を進めていくべきだ」
フランス・パリから来日したUnaBiz CEOのヘンリ・ボン氏は開口一番こう述べた。UnaBizは、2023年3月にLoRaWANサーバーを開発するThe Things Industriesとの提携、そして7月のセムテックとの提携ではSigfoxのLoRaプラットフォームへの統合を相次いで発表している。
経営危機に陥ったSigfox社をUnaBizが2022年4月に買収してから1年余、同社は「LPWA統合」に向けて着々と足場を固めてきた。「Sigfoxの買収にはセムテックも手を挙げていた」とボン氏は明かす。各LPWA陣営はIoTの利用シーンを広げたいという共通の思いを抱きながらも、自分たちの技術が最も優れていると考えているが、「LPWAテクノロジーはもう出尽くしている。ここで争っていてもMassiveIoTは実現できない」とボン氏は説く。技術オリエンテッドな思考から顧客中心主義でのソリューション提供に転換することで、IoT技術が本来目指すべき世界が、構想からリアルに変化するというのが、同氏の考えだ。
こうしたUnaBizの戦略を、日本国内のオペレーターである京セラコミュニケーションシステム(KCCS) ICT事業本部 ワイヤレスソリューション事業部 副事業部長の川合直樹氏は「すべてのオペレーターが共感できる」と歓迎する。
「Sigfoxオペレーターには一国一事業者という縛りがあり、我々オペレーターにはSigfox以外のLPWAは提供できないという制約があった。これはまさに技術主導的な考え方。システムベンダーとしては顧客の課題や目的が優先で、それを解決するためのネットワークはどんなものであってもいいというのが本来の形だ」
UnaBiz CEO ヘンリ・ボン氏(左)と、京セラコミュニケーションシステム ICT 事業本部 ワイヤレスソリューション事業部 副事業部長の川合直樹氏
コンバージェンスへの期待
日本では、KCCSが2017年にSigfoxの展開を開始し、2019年には人口カバー率が95%に達している。これは世界各国でもトップレベル。ボン氏も「KCCSは最優秀のオペレーターだ」と太鼓判を押す。その一方で、この広いカバレッジのために、他のLPWAとのハイブリッドな利用形態は想定されてこなかった。しかし、海外での利用を希望したり、国をまたいだロジスティクス業務で使いたいという声が、大企業のユーザーを中心に最近増えてきたという。将来的にもこうしたニーズが増大することを見越し、KCCSはコンバージェンスに乗り出している。
海外のSigfoxの状況に目を移すと、フランス、スペイン、シンガポール、台湾といったUnaBizがオペレーターを務める国は、日本に準じたカバレッジを持っている。しかし、韓国やドイツの人口カバー率は70%に満たない。
また、Sigfoxが展開されている国は70カ国を超えるが、中東・アフリカ各国は手薄で、中国、ロシアの大国にもローカルオペレーターが存在しない。米国はカバレッジが一部の都市部に限られている。こうした地域ではLoRaWANパートナーとの提携により、LoRaWANを介したSigfoxの利用が広がる可能性がある(図表1)。サービスエリア外でも、携帯電話のローミングのような手軽さでSigfoxデバイスからのデータ取得ができるようになれば、利用機会の飛躍的な増加が見込める。
図表1 コンバージェンスによるSigfoxカバレッジの拡大
衛星とのコンバージェンスも進んでいる。海上や山中など、地上局が設置できない場所の通信を低軌道衛星を用いてカバーする。また、港湾ではSigfoxが利用できるが、航海中は衛星を用いることになるため、Sigfoxと衛星通信の両方に対応したトラッカーがすでに製品化されているという。
Sigfoxの各国オペレーターは、整備開始後の3年以内に人口カバー率を85%まで高めることを目標に取り組んでいる。公衆網であるSigfoxの整備には、プライベート網として敷設されるLoRaWAN、ZETAなどのLPWAより大きな投資が必要となる。一方、プライベート網は当然ながらオーナーが存在し、それによる制約を免れない。
SigfoxとLoRaWANの“相互乗り入れ”は、Sigfoxのカバレッジ拡大はもとより、自営網のLPWAを使用してきたユーザーにとっても、公衆網の利点を享受できるメリットがあると川合氏は語る。そのためには通信モジュールのハイブリッド化やシステム開発が必要になるが、こうしたコンバージェンスはSigfoxの利用シーンを拡大させ、ひいてはLPWA市場をより活性化させることになるだろう。