NTT東日本とNTT DXパートナーは2023年8月23日、睡眠事業に取り組む企業間コミュニティ「ZAKONE」1周年の成果報告の記者発表会を開催した。合わせて、個人向け睡眠改善コミュニティ「ZAKONE LAB」の同日のグランドオープンを発表した。
日本人の睡眠の課題をどう解決するか
発表会では、まず矢野経済研究所 ライフサイエンスユニット 主任研究員の笠木靖弘氏が、スリープテック市場、つまり睡眠の改善を目指す装置やシステム、サービスのトレンドを概観した。日本人の平均睡眠時間は7時間22分であり、OECD加盟33カ国中で最も短いことが知られるようになったが、近年は年を追うごとに平均睡眠時間が短時間化しているという。その上、コロナ禍における生活リズムの変化が睡眠に悪影響を及ぼしている可能性を指摘する。
矢野経済研究所 ライフサイエンスユニット 主任研究員の笠木靖弘氏
7割もの人が睡眠に何らかの課題を持つ一方、睡眠時間およびその質と企業の利益率にはプラスの相関関係があるという研究結果が報告されているという。厚生労働省も勤務間インターバル制度を拡大し、2025年までに15%以上の企業での導入を目指している。つまり、睡眠は個人の問題に留まらず、法人・組織でのマネジメントの必要性が高まっていると笠木氏は述べる。
このような社会的・政策的要因と、スマートフォン、ウェアラブル機器の普及やセンサーの小型化、AIなどによる解析技術の向上という技術的要因により、スリープテック市場が出現した。矢野経済研究所によれば2020年には30億円だった市場規模が、2025年には105億円に拡大すると予測する。
睡眠に課題を抱える人が多いなか、「対策の手法が確立されていないのが問題」とZAKONE事務局を務めるNTT DXパートナー プラットフォームビジネス部 ビジネスデザイナーの梅田貴大氏は言う。
ZAKONE事務局の梅田貴大氏
梅田氏によれば、寝具関連、改善薬などの既存市場は1.2兆円規模。これに運動・スポーツや理美容、エンタメなどが質の良い睡眠のための手段になると、睡眠市場は膨らみ、潜在市場規模は3~5兆円になると予測する。「既存睡眠市場では夜のための製品が多い。実際にはもっと広がりがあり、日中が大切だ」と、起きて活動している時間帯の行動や製品も睡眠にとって重要であるという。
企業間コミュニティ「ZAKONE」は70社に
こうした背景から、NTT東日本とNTT DXパートナーが昨年8月に睡眠関連企業間コミュニティの「ZAKONE」を立ち上げた(参考記事:スリープテックに挑むNTT東、異業種コラボで「睡眠市場」掘り起こしへ|BUSINESS NETWORK)。参画企業は当初の17社から70社・団体に増え、その中には研究機関や非営利団体もある。
「ZAKONE」参画企業・団体
この1年、ZAKONEでは睡眠市場の活性化のために企業間のコラボレーションやイベントの開催を進めてきた。ミートアップイベント「ZAKONE NIGHT」を月1回開催し、睡眠に関する実証実験に結び付いた例もある。代表的なものとして、エステーとの「トドマツの香り成分の効果検証」や、日本出版販売との「読書と睡眠の効果検証」などが挙げられた。
また、ZAKONEを通じた企業のコラボレーションも進み、大企業から中小企業、非営利団体など、企業規模に捕らわれない取り組みが誘発されているという。その例には新幹線車内での仮眠実証や、寺院や老舗旅館で開催したイベントなどがある。
しかし、「企業を集めてモノ・コトを増やしても、睡眠市場の真の活性化には不足がある」と梅田氏は課題を述べる。多くの企業にとって睡眠事業は新規事業であるがゆえに、既存の販促・販売ルートが使えず、顧客接点の創出や、睡眠に課題を持つユーザーのニーズ把握に苦戦してしまうというのだ。