SPECIAL TOPICNVIDIA GPUによる「リアルタイムAI」が通信事業者ビジネスを次の次元へ導く

「通信事業の収益性を高める」。この最優先課題に挑む世界中の通信事業者が大きな期待を寄せるのが、AIだ。モバイルネットワークの品質・信頼性を高めることはもちろん、ビジネスオペレーションの効率化、コスト削減、そしてサービスの高付加価値化と幅広い領域にAI/機械学習を応用しようとしている。その取り組みを下支えしているのがNVIDIAだ。この領域で先行する米AT&Tを例に、「通信事業者のAI活用」の最前線をレポートする。

2万人のエンジニア派遣ルートをAIで最適化

AT&Tはすでに、図表2に示した7つの領域でAIを活用し、成果を挙げている。RAN(無線アクセス)運用の自動化、ファイバープランニングと最適化、インシデントマネジメントといったネットワーク運用管理に関わるもの、不正検知のようなセキュリティ対策、そして顧客接点であるコールセンター業務と、AT&TのAI活用は幅広いオペレーションに及ぶ。

図表2 AT&TがAIを活用している7領域

このうち、特に目覚ましい効果を挙げている2つの用例について詳細を紹介しよう。1つめは、災害時や障害発生時に行う「技術者派遣」の最適化だ。

言うまでもなく、通信事業者のネットワークに障害が発生した場合は、可能な限り迅速に復旧することが求められる。AT&Tは、この復旧作業を担う技術者を2万人も抱えており、米国各地の拠点から障害発生箇所や顧客の元へ派遣。そのオペレーションコストの高騰が大きな課題となっていた。

図表3 技術者派遣に関してAT&Tが抱えていた課題

図表3 技術者派遣に関してAT&Tが抱えていた課題

この技術者派遣のオペレーションは非常に複雑だ。発生した問題に対して、必要なスキルとツールを持つ技術者を迅速に派遣するため、適切な位置にいる技術者を選び、最も効率的に目的地へたどり着けるルートを選定。天候や交通渋滞、技術者のスケジュールや休憩等も考慮する必要がある。

さらに、発生する障害ごとに影響範囲と深刻度は異なるため、タスクの優先順位も加味して「どこに誰を、どの順番で派遣するか」を決定しなければならない。

AT&Tは従来から、この複雑なディスパッチオペレーションを自動計算する仕組みを開発し、技術者の選定やルート計算を行っていたという。だが、考慮すべき要素が多すぎることもあり、その計算には毎朝4時間もの時間を要していたそうだ。結果がはじき出されたときには、新たな問題が発生していたり、技術者が病気で出動不可になったりと状況が変わっていることも少なくなかった。

この問題を解決したのが、NVIDIAのAIソリューションだ。

これまで計算に用いていたCPUに代わり、AI処理を得意とする「NVIDIA GPU」を採用。さらに、アマゾンの倉庫で出荷作業を行う自律走行ロボット群の制御や、米ドミノピザの配送等にも用いられているルート最適化ソフト「NVIDIA cuOpt」を活用することで、それまで4時間かかっていたディスパッチオペレーションの計算時間を、わずか数分に短縮した。

図表4 NVIDIA cuOptの概要

図表4 NVIDIA cuOptの概要

この変化は劇的だった。AT&Tは追加の障害発生や技術者の状況変化等に即時的に対応するため、1日中、オンデマンドにディスパッチオペレーションをやり直すことが可能になったのだ。結果的に技術者の作業効率は6%改善。より多くの仕事を効率的にこなせるようになったとしている。また、顧客満足度の向上に加えて、技術者の移動時間と燃料費の削減にも貢献している。

図表5 NVIDIA GPUとcuOpt導入の効果

「リアルタイム性」が、AI活用を新たな次元へ

この事例からは、AI活用においてGPUの採用がキーポイントになることがわかる。

非力なCPUを使って長時間計算しても、そこから得られる価値は限定的なものに過ぎない。対して、GPUはCPUに比べて、計算スピードをおよそ100倍にも高めることができる。つまり、GPUを用いることで、「AI処理にリアルタイム性という新たな価値を加えることができる」と、エヌビディア(日本法人) エンタープライズマーケティング マーケティングマネージャの平野皓大氏は指摘する。「圧倒的な速さによって、圧倒的な力を生む」ことができるわけだ。

エヌビディア(日本法人) エンタープライズマーケティング マーケティングマネージャの平野皓大氏

同氏によれば、このGPUパワーを有効活用してオペレーショナルエクセレンスの領域でAIを活用しようという取り組みは様々な産業に広がり始めているという。上記のAT&Tの事例は、まさにその先行例の1つと言えるだろう。

そして、AT&Tが得た成果はこれだけではない。

AI処理には膨大なコンピューティングパワーが必要であり、CPUを用いていた従来システムでは、その計算のために途方もない数のサーバーを使っていた。このクラウドにかかるコストも大きな課題であり、これをGPUに変えたところ、コンピューティング資源が大幅に削減。AT&Tは、インフラコストを4割程度も抑えることに成功したとしている。

単体の価格を比較すれば、GPUはCPUに比べてはるかに割高だ。電力もより多く消費する。しかし、膨大な数のサーバーを使わなくても計算できるようになることで、結果的にクラウドにかけるコストが削減できるのだ。これも、AI活用において見逃せない視点だ。

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