通信事業者(MNO)のネットワークには、MNO自身のサービスが生み出すトラフィックよりも、はるかに多くのトラフィックが流れている。動画・音楽やゲームのストリーミング、広告等がその代表例だ。
コンテンツ事業者やGAFAM等のハイパースケーラーが莫大な収益を上げる一方で、MNOは右から左へと流れるトラフィックをひたすらさばき続ける──。通信業界にとっては甚だ不健全な状態が続いているが、これを覆そうとする取り組みが走り始めた。“仕掛け人”の1社がKDDIだ。
KDDI 技術統括本部 シニアディレクターの古賀正章氏(中央)と、技術戦略本部 標準化戦略室 室長の渡辺伸吾氏(左)、同エキスパートの若山敏康氏(右)
MNO発のイノベーションを
「音声、メッセージング、モバイルインターネットと、我々は自らイノベーションを起こしてきた。しかし、最近は、コネクティビティ(つながりやすさ)だけの提供者になってしまうという危機感が大きくなってきている」
そう語るのは、KDDI 技術統括本部 シニアディレクターの古賀正章氏だ。反転攻勢にはもちろん、新たなイノベーションが必要である。
それは何か。
KDDIは、MNOの業界団体であるGSMAで次なるイノベーションを検討するGSMA Foundryに参画。そこで辿り着いた結論が、5Gの機能とMNOが持つ情報をアプリケーション開発者に提供し、アプリ側からネットワーク機能を使い制御や情報取得をできるようにする「共通API」だ。これを媒介として、MNOとアプリ/サービス事業者が連携し、ビジネスを共に発展させられる世界を目指す。
MNOは、アプリの価値向上につながる様々な情報を持っている。端末の接続状況や通信品質、位置に関する情報などだ。また、特定アプリのトラフィックを優先制御したり、コンテンツサービスやECの決済をMNOが行い、携帯電話料金と合わせて徴収したりすることで、サービス利用者の利便性を高めることもできる。
こうした連携は以前から行われてきたが、MNOごとに仕様が異なるうえ、通信技術に詳しくないアプリ事業者には仕組みそのものが難解で、活用範囲はなかなか広がらなかった。この仕様をMNO間で共通化すれば、アプリ開発者や企業はどのMNOの5Gを使っていても同じようにネットワーク機能を使い、情報を呼び出せるようになる。