アマチュア無線が支えるデジタル社会「“ワイヤレス人材”育成を草の根で」

社会のデジタル化は、無線技術に通じた“ワイヤレス人材”を必要とするが、その育成は一朝一夕にはいかない。そこでさる2023年3月、アマチュア無線を人材育成に活用する制度改正が行われた。

アマチュア無線にどんなイメージをお持ちだろうか。情報通信ビジネスに携わる人の中には、少年時代から無線機を操っていた愛好家も少なくないだろう。

今、アマチュア無線制度が変革の時を迎えている。総務省は2022年1月から「ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線アドバイザリーボード」を開催し、同年8月に提言をまとめた。パブリックコメントを経て、2023年3月22日に電波法施行規則等の関係法令が改正・施行された(一部は今年9月25日施行予定)。

改正の概要を図表1左側に示した。アマチュア無線に触れる機会を広げ、かつ制度を簡素化することでアマチュア無線の免許人を増やし、ワイヤレス人材の育成につなげていきたいという趣旨だ。

図表1 ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線の活用に係る制度改正の概要

図表1 ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線の活用に係る制度改正の概要

アマチュア無線は無線通信技術の基礎

我々の生活は様々な無線デバイスに囲まれていることは言うまでもない。ほとんどの人がスマートフォンを持ち歩き、街中に設置されるIoT端末は増加の一途をたどる。Beyond 5Gの実現も視野に入る今日、無線への社会的ニーズは高まる一方だ。

1990年代末からの携帯電話の爆発的普及が1人1台以上の無線端末を持つような状況を作り出したが、その発展は20世紀初頭からの無線通信の歴史上にある。

日本国内においては、アマチュア無線家の団体である日本アマチュア無線連盟(JARL)が1926(大正15)年に創立して以来、百年近くの長きに渡ってアマチュア無線の普及活動や人材育成などの活動を続けている。

総務省 総合通信基盤局 電波部 移動通信課 課長補佐の伊藤健氏は、「忘れられがちだが、戦後発展した無線通信技術を支えてきた人材はアマチュア無線から生まれたとも言われている」と述べる。戦後生まれた様々なイノベーションに、アマチュア無線という「趣味」が大きく貢献したという歴史があるのだ。

アマチュア無線は「趣味の王様」と呼ばれる。国境を越え、遠くの人と直接コミュニケーションできることが大きな魅力となり、世界では約300万人が楽しんでいるという。

総務省 総合通信基盤局 電波部 移動通信課 課長補佐 伊藤健氏

総務省 総合通信基盤局 電波部 移動通信課
課長補佐 伊藤健氏

しかし、国内におけるアマチュア無線の局数は1994年度の約136万局をピークに減少を続け、2021年度は約38万局と最盛期の約4分の1となっている(図表2)。

図表2 アマチュア無線局数の推移

図表2 アマチュア無線局数の推移

免許人の高齢化も顕著で、2021年1月現在、60歳以上が全体の約6割を占め、70歳以上に限っても全体の約4分の1に上る(図表3)。

無線通信技術に身近に触れられることも、趣味としてのアマチュア無線の魅力だ。電波の伝わり方を楽しんで体感することが、IoT技術や、より高度な無線技術を探求する入口となる。無線通信技術の知識を有して社会で活躍する「ワイヤレス人材」の育成手段として大いに期待されているのだ。

図表3 アマチュア無線局免許人の年代分布(2021年1月)

図表3 アマチュア無線局免許人の年代分布(2021年1月)

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