「世界的に大規模障害が増加しているという傾向は認められない。また、通信障害が特定の原因で発生しているという有意な傾向も見られない」
世界中の通信事業者に製品/ソリューションを提供し、モバイルネットワーク構築・運用をサポートしているエリクソンは、通信障害の状況をこう分析している。
KDDIの大規模障害が発生した今年7月には、カナダでも大手事業者ロジャーズの通信障害が全土で発生した。原因は、コアネットワークのメンテナンス作業時に発生したルーターの誤作動。運用上のミスという点もKDDIの障害と共通しているが、こうした数件の事故だけに囚われると対処療法的な解決策しか見えてこない。
新旧の機能・機器が入り乱れ
大切なのは、モバイルネットワークが構造的に抱える問題を整理することだ。エリクソン・ジャパン CTOの藤岡雅宣氏はこう続ける。
「5Gになって、ネットワークがどんどん複雑化している。この複雑性と、運用サポートのバランスが崩れたときに障害が発生している」
エリクソン・ジャパン CTO 藤岡雅宣氏
モバイルネットワークはその進化の歴史において、機能と機器の更新・追加を繰り返しながら複雑化の一途を辿ってきた。これを通信障害の根本原因に挙げるのは、シスコシステムズ クラウド・サービスプロバイダー アーキテクチャ事業担当執行役員の高橋敦氏も同じだ。「トラフィックの増大に伴って機器数が増えている。ソフトウェアが古いバージョンのままのレガシー機器も多い。障害の大半は複雑性の増大に起因している」
シスコシステムズ クラウド・サービスプロバイダー アーキテクチャ事業担当 執行役員 高橋敦氏
新機能が継続的に追加されることでライフサイクル管理が煩雑化していることも要因の1つに挙げられよう。
超大規模システムであるキャリアネットワークで機器の故障やソフトウェアの不具合を根絶することは不可能だ。通信事業者は障害の芽を早期に摘み取り、影響を最小限に留めるための対策を何重にも施している。その業務が複雑化・煩雑化しているところに構造的な問題がある。