次世代ワイヤレス技術の実用化ロードマップとインパクト[第2回]【ボディエリアネットワーク】健康状態を遠隔から常時見守り 体内に埋め込むインプラント型も

ボディエリアネットワーク(BAN)の研究が進んでいる。BANとは、人体の表面や体内用の無線ネットワークのこと。医療用途などで期待が高まっている。

緊急通報など、さまざまな応用ができそうなこのシステムだが、浜口氏がまずターゲットとして考えているのは「生活習慣病の予防」だという。図表1にセンサーと予防対象となる疾病の関係を示したが、高血圧やがん、糖尿病など、代表的な疾病の多くは、生活習慣の改善により予防できる。生活習慣病の予防を支援する遠隔健康管理システムをBANにより実現できれば、個人にとっても国全体にとってもインパクトは非常に大きいだろう。「技術的にはもうほとんどできている。あとは、制度やビジネスモデルなどの問題をどうしていくか」と浜口氏は話す。

センサーと予防対象となる疾病

高齢者介護にも貢献

ウェアラブルBANの利点は手軽さにあるが、一方で体表からできることには限界があるのも事実だ。

例えば血糖値。糖尿病患者は全国に3000万人といわれ、数ある生活習慣病の中でも有効な予防策の必要性は高いが、現状実用化されている技術では体外から血糖値は測れない。

だが、埋め込みには手術が必要という課題はあるが、インプラントBANなら、その可能性は一気に広がる。糖尿病の例でいえば、すい臓の近くにセンサーを埋め込むことで、インスリンの量を検知できることが分かっているという。

さらに将来は、インプラントBANを治療そのものに使おうという動きも活発になってくるかもしれない。「ICTを使い、患部に到達したら開くカプセル薬といったものはできそうだ」と浜口氏は語る。

また、認知症患者の徘徊は、介護する家族にとって大変な負担となっているが、この問題にもインプラントBANは役立つ可能性があるという。認知症患者の居場所確認用にインプラントBANを使うのだ。ウェアラブルBANは簡単に取り外せるが、埋め込み型のインプラントBANにその心配はない。BANの先のネットワークにつなぐ通信インフラをどう用意するかという問題に加え、プライバシーや人権の問題もあり、十分に検討を重ねたうえでの実用化が求められるが、高齢化が進む今後、真剣に考えていかなければならない応用例の1つかもしれない。

人間の体内はまだ未知のことが多く、その詳しい電波伝播特性など調査・研究しなければならない点が山積みなのも事実だ。しかし5年後にはインプラントBANの実用化もだいぶ進展しているのではないかと浜口氏は見る。

高齢化社会の進展にあわせ、急成長が見込まれるBAN市場。前述の通り、BANコーディネータとして使われるほか、携帯電話自身にはすでに加速度センサーや歩数計が入っており、携帯電話業界にとっても有望なビジネスチャンスとなりそうだ。

図表2 IEEE802.15.6の位置づけ
IEEE802.15.6
BANの標準化はIEEE802.15.6で進められている。通信距離は人間の身体全体をカバーする3m以上、生体情報を扱うため高信頼かつセキュアな通信、生体への影響の考慮、超低消費電力、データ伝送速度は最大10Mbpsなどが主な要求条件だ。センサー情報が中心なのに最大10Mbpsとは高速過ぎる気がするが、これはゲームなどのエンターテイメント用途も期待されているため。LGエレクトロニクスなど韓国勢が熱心だという

第1回「【コグニティブ無線】電波利用のムダなくす、ホワイトスペース活用のコア技術」
第3回「通信技術の活用で「ぶつからないクルマ」を実現」
第4回「五感情報を無線で伝える「ワイヤレス臨場感通信」

月刊テレコミュニケーション2009年8月号から転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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