安心・安全な「ぶつからないクルマ」を作る――。
ハイブリッド車や電気自動車などとともに、カーエレクトロニクスの分野でホットなテーマの1つとして危険を予知する知能化技術がある。
衝突による被害を防止・軽減するための対策は「衝突安全」と「予防安全」の2つに分けられるが、現在、自動車メーカー各社が特に注力しているのが後者だ。
車両に搭載したカメラやレーダーなどのセンサーを活用し、クルマ自体が周囲の状況を感知して予防対策を講じる「プリクラッシュセーフティ」システムは、すでにトヨタ、日産、ホンダの各メーカーが実用化。センサーとコンピュータが衝突物までの距離等を計測して警告すると同時にブレーキの油圧を高めて止まりやすくするといった仕組みが、事故の予防、被害軽減に効果を上げている。
だが、道路交通の安全性を高めるには、クルマそのものを知能化する自律型システムだけでは十分ではない。交通事故原因の大半を占めるのは、ドライバーの発見・判断・操作の遅れや誤りによるものであり、人間の認知・判断能力を補うさらなる仕組みが必要になる。つまり、「ドライバーから見えない範囲の情報」を無線通信により提供し、注意喚起や警報を行う安全運転支援システムにも、大きな効果が期待されている。
車載機や歩行者が携帯する機器が、道路上に設置されるインフラ設備を介し(路車間通信)、あるいは直接通信し合い(車車間通信・歩車間通信)、位置情報等を交換して出会い頭の衝突、見通しの悪い道路での追突などを防止する――。
そうした「インフラ協調による安全運転支援システム」の実用化は、間近に迫っている。
ITSの分野では、クルマをセンサーに見立て、各車両の位置や速度等のデータをセンターに蓄積した「プローブ情報」の活用も進んでいる。これを元に作成した渋滞情報の配信サービスは、すでに自動車メーカー各社のほか、日立製作所なども提供中。安全運転支援システムと同様、こちらもより多くの情報が蓄積することで有用性が増すだけに、各社のサービスの連携が待たれる |
2010年から実配備スタート
総務省・国土交通省・経済産業省などのITS(高度道路交通システム)関連省庁と、自動車関連メーカーとの連携による「路車間通信」「車車間通信」の実用化に向けた取り組みは今年、大詰めを迎えている。
2009年2月、東京都のお台場でITSの公開デモンストレーション「ITS-Safety 2010」が行われた。ITS推進協議会の主催によるこのイベントは、安全運転支援システムの実用化に向け、08年度に官民連携で実施された大規模実証実験の一環として行われたもの。その目的は、これまで複数の省庁で独自に進めてきた取り組みを総合的に検討し、2010年からの実用化を前に各方式の連携も含めて効果的なシステムのあり方について検証することだった。
そこで行われた公道試乗会では、3つの技術による安全運転支援システムが公開された。
路車間通信をベースとするのは、警察庁が進める路車協調システム「DSSS」(Driving Safety Support Systems)と、国土交通省道路局の「スマートウェイ」の2つ。DSSSは光ビーコンを、スマートウェイはETCと同じDSRCを使い、車両に障害物の情報を提供するなどしてドライバーに注意を促す。一方、国土交通省自動車交通局が進める車車間通信システム「ASV」(Advanced Safety Vehicle」は、車両に搭載された車載機同士が通信し合うものだ。
言うまでもなく、安全運転支援システムの推進における最大の課題は、これら複数の方式をいかに連携させるかにある。個々の方式では、カバーできる情報の範囲は自ずと限られる。高速道路や主要一般道など、路側のインフラ設備が充実しているところでは路車協調により情報を取得し、それ以外の場所では車車間通信を使う、といった連携が実現してこそ、システムの効果は増すのだ。
また、これらのサービスを利用するには、対応する機器の搭載が不可欠だ。現時点では、09年4月時点でセットアップ数が2500万台を超えたETC車載機への路車間・車々間通信機能搭載が有力視されているが、いずれにしろ、システムの普及には車載機の交換・導入の促進、路側インフラ設備の敷設が必要になる。車載機の速やかな普及を進めるためには、各システムの強調は欠かせない。
2月の実験では、実際に各システムの連携も実現し、これら3方式の実用化に向けた大きな一歩となった。ITS-Safety 2010は、その名の通り、2010年をターゲットに据えた取り組みの集大成と言えるもの。この検証結果をもとに、いよいよ来年から、安全運転支援システムの配備、実用化がスタートする予定だ。