北海道道央南部、勇払郡厚真町・苫小牧港東側の埋め立て地に苫東厚真発電所はある。
約59万㎡、札幌ドーム約11個分という広大な敷地に、1号機から4号機までのユニット(3号機は2005年に廃止)があり、タービン発電機・ボイラーなどの主要機器が備え付けられている発電所本館のほか、燃料の石炭を貯蔵する貯炭場など、発電所運用に必要な各種設備が設置されている。
北海道最大の発電量を誇っていた泊発電所が2012年に運転を停止して以降、苫東厚真発電所は高稼働が続いており、現在は道内の電力供給の4割を担う重要拠点だ。それだけにトラブルは未然に防がなければならず、設備の点検作業を強化している。
電気事業法に基づき、苫東厚真発電所のボイラー設備・タービン設備とも6年ごとに定期点検を行う必要がある。加えて、苫東厚真発電所では1日3回、巡視点検を行っているが、チェックすべき項目は数千箇所に及び、作業員にかかる負荷は大きい。しかも、「聴診棒」と呼ばれる細長い金属棒を使って、例えば蒸気タービン等の駆動部の音を聞き分けて異常の有無を判断する。また、ボイラーの点検口を開けて燃焼状況を目視で確認するなど、的確に巡視点検業務を行うためには長年の経験やノウハウが要求される。
折しも、北海道電力では大量退職時代を迎えており、発電所の巡視点検業務に従事する社員も世代交代が進んでいる。「巡視点検業務の効率化とともに、ベテランのノウハウを若手にいかに継承するかが大きな課題となっている」と北海道電力 火力部 火力情報技術グループ 主任の梅本天流氏は説明する。
北海道電力 火力部 火力情報技術グループ 主任 梅本天流氏
そこで北海道電力は、巡視点検業務をはじめとする様々な現場業務のDXを推進すべく、ローカル5Gに注目した。グループ会社の北海道総合通信網(HOTnet)がローカル5Gの基地局および陸上移動局の無線局免許を取得。昨年11月から今年9月にかけて、苫東厚真発電所でローカル5Gを活用した実地検証を行った。
図表1 実証試験のイメージ