情報通信産業を「生態系」と「進化論」で語ろう[第1回]コンバージェンスに潜む進化の秘密

生態学の理論を使って「情報通信産業」を分析すると、一体何が見えてくるのか――。トーマツの池末成明氏による連載の第1回テーマは「コンバージェンス(融合)」。進化論の知見を応用して、情報通信産業で現在進展しているコンバージェンスについて論じる。(編集部)

エコシステムとは、環境系ではなく生態系という意味である。エコシステムは、戦略論では事業環境や外部環境に相当するが、昨今ではエコシステムを企業間のビジネスネットワークと捉えているようだ。

経済学や経営学で、生態学のフレームワークを借用した例は、今に始まったわけではない。昔からあり、ビジネスシーンのあちこちで生態学用語が顔を出す。この2年、筆者は生態学の理論を使って、ネットワーク産業の経営や経済を研究している。その成果を皆さんと共有することが、本連載の目的だ。第1回は、コンバージェンスにおける進化論の秘密である。

コンバージェンスとTMT

通信と放送の融合が話題になって久しい。「融合」は、「コンバージェンス(convergence)」の訳語で、デロイトの英国のアナリストによると、コンバージェンスとは、本来は2つの川の流れが1つの流れになることをいう。

情報通信産業で使われているコンバージェンスは、ネグロポンテが最初に使ったと言われている。ネグロポンテは、3つの円を書いて、テレビ、コンピュータ、新聞がコンバージェンスすると語ったという。これはパソコンの画面でインターネットを使って企業のサイトや情報を読み、動画を楽しむイメージを予言したものだと言える。

ネグロポンテは、有名なMITメディアラボの創設者だが、日本のハイビジョンの米国進出を葬った方でもある。これにはこんな逸話がある。米国のテレビ局には当時、「携帯電話に周波数を譲れ」という圧力がかかっていた。その頃、日本はハイビジョンを米国のテレビ局に売り込んでいた。米国のテレビ局は、ハイビジョンに興味を持った。ハイビジョンは周波数を食うので、周波数を「譲れない」と言うための良い口実になるからである。ハイビジョンはアナログだったので、ネグロポンテは「デジタルでやるべきだ」と主張した。

話を戻そう。その後、欧米では1990年代に、テクノロジー、メディア、通信業界が提供するサービスの境界が溶けてしまい、似たようなサービスを提供するようになって、ついには1つの産業にコンバージェンスし、巨大な産業に進化するという見解が登場した。フィナンシャルタイムズでは、テクノロジー、メディア、通信業界が1つの産業になるという意味を込めてTMT産業(Technology, Media and Telecommunication Industry)という用語を使っている。ここでいうTMT産業は、日本の情報通信白書にある情報通信業とほぼ一致する。すなわち、電話会社や放送局、この2つの産業を支えるテクノロジー企業と電設工事事業者などが含まれるのだ。また北米産業分類システム(NAICS)では「情報産業(information sector)」、国際連合の国際標準産業分類では「情報産業(information sector)」という分類が新設され、我が国でも2007年から日本標準産業分類を改訂して「情報通信業」を新設して電気通信、放送と情報サービスを1つの産業に分類した。わずかに遅れて東証も情報通信業を新設したことは、まだ記憶に新しい。

<お詫びと修正>
当初、「その後、ネグロポンテは画像の圧縮技術を開発する。これがMP3である。」と記述していましたが、誤りだったため修正いたしました。お詫びして訂正いたします。

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池末成明(いけまつ・なりあき)

大手コンピュータメーカーにて海外市場での通信機器販売、PCやサーバーの国際戦略立案を担当。その後トーマツグループのコンサルティング会社にて、情報通信市場での事業計画と予算管理、原価計算、接続料問題を主に担当。現在、有限責任監査法人トーマツにて、世界のナレッジマネジャーとともに世界の情報通信メディア業界の調査と事業開発に従事

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