[5G思考#5]Jリーグ、パ・リーグ – さもなくば“顧客”は離れていく

デジタル戦略を軸にファンとのエンゲージメントを強化し、入場者数・売上増に結びつけてきたJリーグとパ・リーグ。5Gが始まる2020年、顧客を開拓して絆を強めるための仕組みを次のフェーズへ進化させる。

「勝てばファンが増える、お客が入る」は、はるか昔の話。プロスポーツ界において、デジタル技術を用いたファンエンゲージメントは今や必須の戦略だ。国内の2大プロスポーツであるプロ野球とJリーグは、この点で大きな成果を上げている。

成長戦略の柱の1つに「デジタル技術の活用推進」を掲げるJリーグは、2017年からデジタル戦略に着手。ファンのエンゲージメント強化を軸に進め、2019シーズンの年間総入場者数が史上初めて1100万人を突破、明治安田生命J1リーグの1試合平均も初の2万人超えを達成した。

リーグ共通ID「JリーグID」に基づくオンラインチケット販売の売上も、2015年の約10億円から昨年に約60億円まで増大。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)コミュニケーション・マーケティング本部 マーケティング部 部長の笹田賢吾氏は「各クラブがCRM、デジタルマーケティングをうまく活用した結果だ」と話す。

日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) コミュニケーション・マーケティング本部 マーケティング部 部長の笹田賢吾氏
日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) コミュニケーション・マーケティング本部
マーケティング部 部長の笹田賢吾氏

2007年にパシフィック・リーグ6球団の共同出資で設立され、リーグ全体のデジタルマーケティングを担うパシフィックリーグマーケティング(PLM)も、2012年からインターネット動画配信を核にデジタルビジネスを本格化した。設立当初に1億8000万円だった売上規模は50億円(2018年度)に拡大。事業開発本部長の園部健二氏は、「球団の既存事業には触れずに、デジタルの領域で発展してきたのがPLM。球団からの期待も大きい」と語る。

Jリーグ、PLMとも、5Gが始まる2020年からデジタル戦略を新たなフェーズに乗せようとしているが、その前にまずはこれまでの取り組みと成功のポイントを確認しよう。

顧客基盤を共通化Jリーグのデジタル戦略の軸は、前述のJリーグIDの創設だ。それまでリーグ、クラブでバラバラだった顧客管理の仕組みを統合するため、「Jリーグが共通IDと共通データベースをプラットフォームとして整備し、クラブが安価に使えるようにした」(笹田氏)。チケット・グッズ類の販売、公式スマホアプリ「Club J.LEAGUE」の情報配信がすべてJリーグIDと連携している。

JリーグIDと連携する公式アプリ「Club J.LEAGUE」
JリーグIDと連携する公式アプリ「Club J.LEAGUE」。試合速報やニュース等の情報配信のほか、
スタジアム観戦を主な指標とするポイントプログラム等、Jリーグ観戦を促すコンテンツ/サービスを提供する


JリーグIDは、創設前から運営されていたオンラインチケット販売会員を引き継ぐかたちで約30万人からスタートした。「Jリーグに関心がある人を個として認識できるようにして適切なコミュニケーションを行うCRMを進めてきた」結果、2年余でID数は160万人(2019年末)に急増し、冒頭のような成果につながった。

成功要因は、リーグ主導で共通インフラを構築することで各クラブの投資力の差を埋め、デジタル化に踏み出しやすくしたことが1つ。もう1つが、デジタル人材の確保・育成だ。Jリーグ側にデジタルがわかる人材を集約し、クラブ単体ではIT人材の確保が難しい現状をカバーしている。

さらに2018年からは毎月、クラブのマーケティング担当者の集合研修を全国3カ所で実施している。クラブ同士、リーグとクラブの連携強化のためコミュニティ作りに注力し、ナレッジやノウハウを共有。「共通基盤というインフラの構築と人材、コミュニケーションの強化はDXで重要」と笹田氏は強調する。

月刊テレコミュニケーション2020年3月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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