気付かぬうちにワイヤレス給電――実用化近づく「マイクロ波空間伝送型」方式

マイクロ波を使ったワイヤレス給電方式が注目を集めている。実用化されれば、スマートフォンのバッテリー残量を気にしたり、IoTデバイスのバッテリー交換の煩わしさから解放されそうだ。

いつの間にかバッテリーの充電が完了している――。バッテリー充電につきものの煩わしさを解決する新たなワイヤレス給電方式に今、注目が集まっている。

これは「マイクロ波空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム」と呼ばれ、マイクロ波の送受電により電力伝送を行う。想定される利用周波数は920MHz、2.4/5.7GHzなどで、屋内での利用における送電距離はおよそ10mだ。

マイクロ波空間伝送方式の研究には長い歴史があり、1970年頃までさかのぼる。当時は地球の衛星軌道上で太陽光発電を行い、その電力をマイクロ波に変換。地上に伝送して再び電力に変換する発電方法の研究が行われていた。この研究は今も続けられている。

現在は、新たな無線通信技術を用いたシステムやサービスの早期実用化や国際展開を図るブロードバンドワイヤレスフォーラム(BWF)が中心となって、マイクロ波空間伝送方式を推進している。BWF内にあるワイヤレス電力伝送ワーキンググループ(WPT-WG)にはメーカーや業界団体、大学など59者が参加しており、技術開発や利用環境・利用条件の整備、標準規格化活動に取り組んでいる。

総務省が2017年11月~18年8月に開催した「電波有効利用成長戦略懇談会」でもマイクロ波空間伝送方式は取り上げられるなど、国を挙げて早期の実用化に意欲的だ。世界に先駆けるためにも、2020年度を目途に法制度化を目指している。

東芝 研究開発本部 研究開発センター ワイヤレスシステムラボラトリー上席エキスパートで、WPT-WGでリーダーを務める庄木裕樹氏は「(法制度化に合わせて)2020年度の製品化を目指している」と話す。

ブロードバンド ワイヤレスフォーラム WPT-WGリーダー 庄木裕樹氏
ブロードバンド ワイヤレスフォーラム WPT-WGリーダー 庄木裕樹氏

工場や見守りへの活用を想定ケーブルに接続することなく無線によって給電を行うワイヤレス給電は、近傍領域に給電する非放射型と、遠方のデバイスに給電する放射型に分かれる。マイクロ波空間伝送方式は後者に含まれるが、現在のところ主流となっているのは非放射型の方だ。

なかでも送電側に埋め込まれたコイルが発生する磁界を受電(デバイス)側のコイルが受け取ることで電力伝送を行う磁界結合方式の実用化が進んでいる。数mm~数十cmと伝送距離は短いものの、送電電力は数W~100kWと大電力化が可能であり、伝送効率も最大90%と高い。国際標準規格「Qi」として知られるモバイル機器向けは、スマホ・タブレットの一部機種に搭載されているほか、電動ハブラシやEV自動車などにも採用されている。

これに対し、マイクロ波空間伝送方式は送電電力が20Wの場合で、受電電力は最大1W程度(屋内)。伝送効率は最大でも5%程度と低いが、前述の通り伝送距離は約10mと、離れた場所にあるデバイスにも給電できるのがメリットだ。

WPT-WGの参加メンバーのうち、東芝やパナソニック、オムロン、Ossiaなどが製品化に向けて積極的に取り組んでいる。その1つの応用が、工場内における給電だ。工場では様々なセンサーが使われている。最近は無人の工場も増えているが、電池交換のような人手のかかる作業は極力減らしたい。また、産業用ロボットのように動くモノにセンサーを取り付けている場合など、有線による給電が物理的に難しいケースもあり、無線による給電に対するニーズが高まっている。

このほか、見守り用のデバイスや健康管理用センサーへの給電を検討している。その延長として、ペースメーカーやカプセル内視鏡など体内に埋め込む“インプラント医療機器”への広がりも期待できる。

左は工場内の生産設備用センサーへのワイヤレス給電、右は見守り・健康管理センサーへのワイヤレス給電のイメージ
左は工場内の生産設備用センサーへのワイヤレス給電、
右は見守り・健康管理センサーへのワイヤレス給電のイメージ

そして、東芝をはじめ「各社が最も注目している」(庄木氏)のが、スマホなどモバイル端末への充電だ。

米国では、遠距離ワイヤレス充電技術「WattUp」を開発しているEnergeous社とアップルが、同技術で提携関係にあるといわれる。現行のiPhoneにはQiが搭載されているが、近い将来、いつの間にか充電が完了する方式に対応する可能性もありそうだ。

屋内にいるだけでモバイル端末の充電が行えることは利便性が高く、大きな需要が見込まれる。その他の分野については、非放射型もマイクロ波空間伝送方式も一長一短があるため、「用途に応じて使い分けるようになるのではないか」と庄木氏は見る。

月刊テレコミュニケーション2018年10月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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