「IoT自販機」を地域の見守り拠点に――BLEやWi-SUNで位置情報を送信

飲料水の自動販売機は、全国どこにでも遍く存在する。この自販機をIoT化、リアルタイムに子供や高齢者の位置情報を取得する見守り拠点として活用する動きが加速している。

子供や高齢者といった「社会的弱者」は、街中で事件や事故に巻き込まれる危険性が高い。かつては地元住民が見守り役を担っていた時代もあったが、地域のつながりが希薄になった現代は、それも難しくなっているのが実情だ。

そうしたなか、新たな試みが始まっている。我々が普段何気なく通り過ぎている飲料水の自動販売機が、人間に代わって子供や高齢者を見守るのだ。

具体的な取り組みを紹介する前に、自販機の現状について簡単に触れておこう。

全国に自販機は2016年末時点で約213万台あり、その売上金額は約1兆7405億円に上る(清涼飲料のみの金額、日本自動販売システム工業会調べ)。いずれも大きな数字だが、実は普及台数、売上金額とも前年割れの状況が続いている。

縮小する自販機市場に打開策はあるのか。自販機を「単に飲料水を売るだけでなく、何か付加価値を提供する存在にしたい」というのが、飲料メーカーに共通する思いだ。

自販機には①固定して設置されている、②電源を引ける、③隣接する自販機との距離は数百m程度と密に配置されている、といった特性がある。これらを活かしたサービスの1つとして考案されたのが、地域の見守りである。

自販機から位置情報を送信それでは、自販機を使った見守りサービスとはどのようなものなのか。

渋谷区と東京電力ホールディングス(以下、東電HD)は、otta社が開発したビーコン(発信機)による見守りサービスの社会実証を同区内の小学校で行っている。

ビーコンを搭載したキーホルダー型専用端末を見守り対象者である子供に持たせることで、保護者はスマートフォンやPCから位置情報履歴を確認したり、あらかじめ登録した基地局を通過した際に専用アプリ内通知や指定したメールアドレスに通知メールを受け取ることができる。

ビーコンにはGPSは搭載されておらず、機器の識別情報を1秒おきに発信するだけだ。このためGPS搭載端末と比べて電池寿命が長く、頻繁に充電する必要もない。基地局はコンセントに差し込むだけで設置することができ、3G回線等でインターネットに接続しセキュリティの確保されたクラウドに現在地の緯度・経度情報が送信される。ビーコンと基地局の間はBLE(Bluetooth Low Energy)で通信を行う。

渋谷区と東京電力ホールディングスが社会実証で採用しているotta社の受信機(基地局)と発信機(ビーコン)
渋谷区と東京電力ホールディングスが社会実証で採用しているotta社の受信機(基地局)と
発信機(ビーコン)。受信機はコンセントに差し込むだけで利用できる

見守りの精度の鍵を握るのが、基地局の整備だ。東電HDはキリンビバレッジバリューベンダーと協力し、区内に設置されているキリン清涼飲料の自販機に基地局を取り付けている。

当初、東電HDは電柱などの電力設備に基地局を設置することを検討していたが、作業員の工事費なども含めると膨大な費用がかかるため、数が限られてしまうという課題があった。その点、自販機であれば1局あたり1000円程度と低コストで、エリア内に多数の基地局を短時間で構築できるという。

自販機以外にも、協力を得られた銀行やコンビニ、商店などに基地局を設置している。このほか、無料アプリ「見守り人(みまもりびと)」をインストールしたスマホも、ビーコンを受信する“移動基地局”として利用可能だ。

見守りサービスの実証は8月に神南小学校の学区で開始した。その結果、「見守りとして機能するには、1学区当たり20~30の基地局が必要になることがわかった」と新成長タスクフォース事務局インフラ活用・IoT事業プロジェクトチームtapcotta事業本部長の杉浦賀彦氏は話す。そのうちの一定数を自販機が担うことになるという。

実証は10月下旬から11月初旬にかけて、区内にある他の小学校18校でも順次スタートする。

東電HDでは10月末にも具体的な料金プランを発表し、商用サービスとして提供する予定だ。23区に住む1500人を対象に行ったアンケート調査の結果に基づき、見守りサービスの基本料金は月額500円程度にする考えだという。

また、「位置情報を地図に表示するだけのサービスに終わらせない」と杉浦氏。三井住友海上火災保険との協力による見守り対象者の交通事故や賠償事故の補償、健康・医療・育児・介護の電話相談、トラブル発生時の駆けつけなどの付加価値サービスも提供する。

otta社の見守りサービスは、大阪府箕面市内の小中学校で導入されているほか、関西電力が提供に向けた検討を行っている。将来的には、地域をまたいで相互に連携する可能性もあるという。

月刊テレコミュニケーション2017年11月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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