デジタルトランスフォーメーションが加速するなか、ビジネスのあらゆる領域でネットワークへの依存度が高まっている。社内外のコミュニケーションや業務アプリの利用はもとより、顧客に提供するサービスの多くも、もはや“安定的かつ高品質、安全なネットワーク接続”なしに成り立たなくなっている。
幸いなことに、企業からみればネットワークの選択肢は豊富にある。アクセスネットワークとしてはWi-Fiに加えてセルラー網の4G/LTEや5Gが使えるほか、従業員の自宅からインターネット回線も利用するようになった。
しかし、「エンドツーエンド(E2E)で、ネットワークを可視化・制御できる仕組みが整っていない。Wi-Fiやセルラー回線、MPLS回線、エッジクラウド、パブリッククラウドなどのインフラは個別に管理され、サイロ化されているからだ」とジュニパーネットワークスの上田昌広氏は指摘する。
エンドデバイスからアプリケーションまでは様々な経路を通るが、それぞれの管理主体が異なっているため、E2Eでの可視化や制御はできないのが現状だ。そのため用途や状況に応じて、E2Eでネットワークを最適に制御するといった柔軟な対応は難しい。
例えば、トラブル発生時、E2Eで迅速に原因を可視化して、緊急回避策を実行することも簡単ではない。今後、クルマの自動運転や重機の遠隔操作、遠隔手術などの本格普及が期待されている。E2Eでネットワークの可視化・制御が行えない状態のままでは、ネットワークトラブルが人命を左右するケースも発生しかねないだろう。
そうしたなか、企業と通信事業者のネットワークを融合させ、E2Eでの制御と可視化の実現を目指す試みが始まっている。
ジュニパーネットワークス 技術統括本部 統括本部長 上田昌広氏(左)、
グローバルアライアンス統括本部 ビジネスデベロップメントダイレクター 高橋利臣氏
コントローラーは1つじゃないADVA、ジュニパーネットワークス、NetCracker(NEC)、NTTコミュニケーションズ、マイクロソフトの5社はネットワーク技術の標準化団体「MEF(Metro Ethernet Forum)」が主催する「MEF 3.0 Proof of Concept Showcase」において、複数拠点を跨いだエッジコンピューティング基盤とそれらを接続するネットワークを、一元的に可視化し制御可能にする協調制御システムを発表し、「Market Game Changer Award」を受賞した(図表1)。
図表1 MEF3.0のPoCで示されたエンタープライズWANとキャリア網融合イメージ
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これは、企業ネットワーク全体を構成する複数の回線・基盤を、オープンAPIを介して連携させ、E2Eでの可視化とプロビジョニングを実現したものだ。「ユーザーは目的のデータやアプリケーションまで、様々な回線や基盤を経由しているが、それぞれがAPIを介して設定やステータスなどを共有してE2Eのエコシステムをつくっている」とジュニパーネットワークスの高橋利臣氏は説明する。
このPoCの優れた点は、各事業者間のエコシステムを利用している点であるという。「E2Eで可視化する仕組みを考えた時、『1つのコントローラーを開発して統合的に可視化すればいいのではないか』という意見をよく聞くが、あまり現実的ではない。例えばコントローラーの配下にあるSD-WANのバージョンが上がるたび、コントローラーの更新が必要になってしまう。既存の複数のコントローラーをAPIで連携していくことが、柔軟なサービス提供にもつながると思う」と上田氏は述べる。
ユーザーが操作するのは従来から利用していたSD-WANなどのソリューションであり、他システムと連携することで結果的にE2Eで集中的に監視することができるようになるのだ。