IoTによって、世界のあらゆる状況がリアルタイムに可視化できる時代が近付いてきている。私たちのカラダに関してもそうだ。すでに様々なウェアラブルデバイスが登場し、リアルタイムに生体情報をモニタリング可能になっている。
しかし今はまだ、ほんの序の口に過ぎない。「生体IoTは近い将来、“New Era(新時代)”に移行する」と話すのは、産業技術総合研究所(AIST)でIoT無線MEMSシステム研究チームの主任研究員を務める魯健(ルウ・ジャン)博士だ。
新時代に向けて重要な役割を担うのは、体内に埋め込むインプラント型のIoT無線センサー。魯博士はその研究に力を注いでいる。
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(AIST) エレクトロニクス・製造領域
集積マイクロシステム研究センター IoT無線MEMSシステム研究チーム
主任研究員 魯健氏
なぜインプラント型か?リストバンド型や衣服型など、生体情報をセンシングできるウェアラブルデバイスは今や珍しくない。ウェアラブル型の優れた点は、装着が手軽なことだ。インプラント型のように手術などは不要である。
ただ、問題はデータの精密さだ。体温計をイメージすると分かりやすいが、少しズレるだけで、正確に計測できなくなる。「本当にいいデータを安定的に取得するためにはプロフェッショナルの助けがいる」と魯博士は指摘する。
一方、インプラント型はどうか。魯博士が牛の胃袋の近くの皮膚下にIoT無線センサーを入れて行った実験では、「餌を与えた後、牛の体温がどう変化するのかが、0.1℃単位で精密に計測できた」という。
IoT無線MEMSシステム研究チームを立ち上げ、現在はAISTの名誉リサーチャーである前田龍太郎博士も、「牛の背中や尾にセンサーを付けても、これほど精密な計測はできない。直接入れることは重要だ」と話す。
左がマウス用、右が牛用のインプラント型IoT無線センサー
AISTがターゲットとするのは、単なるヘルスモニタリングではない。もう一歩踏み込み、「病気を早期に“予知”できるようにしたいと私たちは考えている」と魯博士は語る。そのためには、体内の状態を高精度に常時モニタリングできるインプラント型IoT無線センサーが必要になる。