巨大な可能性を秘めたIoT――。とりわけ有望視される2つの市場で、すでに確かな橋頭堡を築いた企業がある。KDDIだ。
まずはスマートメーターの市場においてだ。電力会社各社は現在、スマートメーターの導入を進めているが、「10社ある電力会社のうち、9社がKDDIの通信モジュールを採用している」とKDDIでビジネスIoT企画部長を務める原田圭悟氏は語る。
KDDIのモバイルネットワークが活躍しているのは、「Aルート」と呼ばれるスマートメーターと電力会社の間をつなぐ部分だ。
ここで簡単に説明すると、Aルートには複数の方式があり、すべてのスマートメーターが直接、モバイルネットワークを介して電力会社にデータを送っているわけではない。
住宅が密集する都市部の場合、920MHz帯の無線通信でスマートメーター間をバケツリレーのようにつなぎ、「コンセントレーター」に集約してから送る方式が主流だ。
スマートメーター1台1台に通信モジュールが搭載されるのは、住宅が密集していない郊外や山間地などのルーラルエリア。「コンセントレーターから上の回線も担当しているが、比較的ルーラルな地域の1:1で電力会社にデータを送るスマートメーターに関しては、完全に当社の通信モジュールが使われている」
つまり、図表1にある5700万超という数字は、あくまでスマートメーター市場全体の規模で、そのすべてにKDDIの通信モジュールが搭載されるわけではない。とはいえ、それでも大変なボリュームであることに間違いはなく、原田氏も「数的には本当に今ものすごく伸びているし、今後も数年にわたって増えていくことが予想される」と話す。
図表1 コネクテッドカーとスマートメーターを中心にIoTビジネスを伸ばすKDDI |
eSIMでつながるクルマもう1つは、コネクテッドカーの分野だ。KDDIの大株主でもあるトヨタ自動車のコネクテッドカー向けグローバル通信プラットフォームを共同開発する。リモートでSIMの設定情報を書き換えられるeSIM(Embedded SIM)を活用し、グローバルでシームレスにつながるクルマを実現する。
従来のコネクテッドカーは、輸出する国ごとにSIMを入れ替えるか、SIMは入れ替えずに割高なローミングサービスを利用する必要があった。「SIMを入れ替えると検査が再度必要になり、自動車メーカーにとって、かなりの手間となる」。それが、eSIMの活用によって、SIMの入れ替え作業なしに、「各国のベストの通信事業者を、ベストのコストで使えるようになる」と原田氏。KDDIは、各国の通信回線の選定・調達にも携わる。
トヨタは、eSIMを採用したKDDIの車載通信機を、2020年までに日本・米国で販売されるほぼすべての乗用車に搭載する予定だ。さらに、そのほかの主要市場にも順次展開していく。
トヨタグループ全体の2016年3月期の自動車販売台数は1000万台を超えており、KDDIのIoTビジネスにとって「相当なインパクト」(原田氏)をもたらすことになる。
ちなみにeSIMについて原田氏は「要望があれば、他の産業の方にも使っていただきたい」と話す。