ワークスタイル変革は企業の“目に見えない部分”の見直しから北氏はまず、スライドに氷山を映し、「ワークスタイルとは何か」について次のように述べた。
「海上に浮かぶ氷山は全体の1割で、9割は海中にある。これと同じように、ワークスタイルとは目に見える一部分でしかない。企業は制度、働く場所、システムなど様々な仕組みが整合性をもって機能しており、それによってワークスタイルが出来上がっている。さらに、それらの仕組みは経営戦略、企業文化、経営理念といったものを実現するために作り上げられている」
すなわち、経営を見直すという決断のもと、社内の仕組みを作り変えていくことで、ワークスタイルも変革する――。北氏のこの考えは、IBM自身の経験によるものだ。
氷山をたとえに、ワークスタイルについて説明した北氏 |
IBMは2002年、業績悪化に伴って株価が半減するという事態に陥った。翌年には業績を回復させたものの、株価は5年にわたって低迷を続けた。その背景には、インターネットの爆発的な普及を追い風に短いスパンで次々と新サービスをグローバルに提供するネット企業の勃興があった。
「ビジネスの土俵もスピードも競争相手も変化していたのに、『IBMは何も変わっていない』というのが市場の評価だった」
日本IBM ソーシャル事業部 ICP コンサルティングITスペシャリスト 北好雄氏 |
この危機を脱するべく、最初に行ったのが企業価値を見直すこと。具体的には、創業以来守り続けてきた「最善の顧客サービス」「完全性の追求」「個人の尊重」という3つの信条の再定義からスタートした。
IBMが行った「企業価値の再定義」 |
ここで生まれたキーワードが「One IBM」だった。IBMは当時、世界140数カ国の現地法人が、それぞれのマーケットに最適化したビジネスを個々に展開していたが、そのやり方ではグローバルな統一戦略を打ち出している競争相手に勝てない。そこで、各国の現地法人のビジネスプロセスを1つに統合した新しい企業形態(Globally Integrated Enterprise:地球で1つの企業)の確立に着手した。