AIの活用は学習と推論の2つのプロセスで語られる。大量のデータを用いて学習することでAIモデルを作り、特定のタスクを実行するために、獲得した知識を適用して結果を推定する。
この推論で、飛躍的な進化が始まっている。従来型の推論(インファレンス:Inference)に代わり、「リーズニング(Reasoning)」という新たな概念が台頭してきた。エヌビディア エンタプライズマーケティング シニア マーケティング マネージャの愛甲浩史氏は、「インファレンスからリーズニングになることで、推論結果が圧倒的に変わることがわかってきた」と話す。一度でもリーズニングモデルの賢さ、思考の深さを知ってしまえば、人はもう後には戻れない──。それほどの魅力を備えている。
エヌビディア エンタプライズマーケティング シニア マーケティング マネージャの愛甲浩史氏(左)と矢嶋哲郎氏
「知識を与える」のではなく「AIモデルに考えさせる」
2つの推論の違いは「知識」と「思考」の違いに置き換えられよう。
インファレンスとは、学習した情報(知識)を適切にアウトプットすることだ。一般的にイメージされる“知能”に比べると、単純なプロセスである。
それに対して、事実や情報に基づいて論理的に考え、問題を解決するための結論を導き出すのがリーズニングだ。これにより、AIはより高度な意思決定や判断に貢献することができる。
この違いがよく分かるのが、図表1に示した回答例だ。家族の夕食の席配置問題を、従来の推論(左)とリーズニングモデル(右)に解かせた結果である。
図表1 従来の推論(Inference)とReasoningの比較
インファレンスの回答は一見して、役に立たないことは明白だ。「8人家族の夕食を円卓で過ごす」という前提を無視し、「別々のテーブルを用意」することを提案している。一方、リーズニングモデルは、8人家族を調和的に着席させる最適な配置を合理的に提案。両親同士を分離、姉と弟は隣に、妻と母を分離という3条件も見事に満たしている。
人間なら、テーブルを分けるのが最適と思っても、それでは答えにならないから考え直すはずだ。「インファレンスにはそのプロセスがなく、『もっと考えさせよう』とするのがリーズニングだ」(愛甲氏)。これにより、AIは知識と思考を組み合わせて複雑な問題解決を行う能力を獲得する。