「ほぼ100%のモバイル事業者が高精度の時刻同期ソリューションを導入しています」。セイコーソリューションズの鈴木康平氏がそう紹介するように、時刻同期は現代社会に不可欠な技術の1つとなっている。
モバイルインフラに高精度な時刻同期が、本格的に必須となったのは5Gからである。4G(LTE)までは、送信用と受信用に異なる周波数を利用するFDD(周波数分割複信)方式が主流であり、セル間での協調動作を必要とするCoMPなどを利用しない限り、高精度の同期は強く求められていなかった。
しかし5Gでは事情が異なる。同じ周波数を時分割して送受信の両方に用いるTDD(時分割複信)が採用されており、高精度な時刻同期なしでは同一周波数および隣接周波数のセル間で干渉が発生する。「高精度に時刻を同期しなければ、5Gの電波は正常に動作しません」(鈴木氏)。標準化団体の3GPPやITU-Tは、誤差1.5マイクロ秒以内の同期精度を求めている。5Gを使った自営通信システムであるローカル5G、TDD方式のLTE(TD-LTE)を用いた自営通信システムのsXGPでも同様だ。
セイコーソリューションズ 戦略ネットワーク本部 タイミングソリューション営業部長 鈴木康平氏
時刻同期ソリューションには、いくつかのタイプがあるが、こうしたマイクロ秒レベルの精度を実現できる代表的な方式がPTP(Precision Time Protocol)である。GNSS受信機などからUTC(協定世界時)を取得したグランドマスタークロックが、配下の機器に時刻情報を配布する。
「工場などでローカル5Gが使われ始め、またsXGPも医療業界を中心に広まってきました。そのため、PTP対応グランドマスタークロックの引き合いは、モバイル事業者以外からも増えています」
放送業界や電力業界でも、従来の専用ネットワークがIPネットワークへ移行する中で、PTPの採用が進んでいる。
「こうした流れを受けて、以前と比べるとPTP対応グランドマスタークロックは、だいぶ一般的な製品になってきたと感じています。今ではスイッチングハブを購入するのと同じような感覚です」と鈴木氏は語る。