キーサイト・テクノロジーは2025年5月28日、ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク（WTP） 2025の会場でメディアブリーフィングを開催。米国本社 6Gチーフテクノロジストのバラジ・ラゴサマン氏が、6Gに向けて同社が力を入れる「デジタルツイン」「センシング」の2つのソリューションへの取り組みを説明した。
米キーサイト・テクノロジー 6Gチーフテクノロジストのバラジ・ラゴサマン氏
ラゴサマン氏はまず、6Gの標準化の動きや実用化に必要となる技術などを説明したうえで、デジタルツインが6G/5Gのネットワーク構築・運用において重要な役割を担うとした。
デジタルツインは、現実世界の物理的なオブジェクトをリアルタイムでデジタル化してレプリカを作成。現実のシステムの特性、条件、動作を、デジタル上でシミュレーションできるようにするものだ。
キーサイトは、デジタルツインによる電波シミュレーション環境「RaySim（レイシム）」を開発し、3月に開催されたMWC 2025でデモを公開している。
この製品は、レイトレーシングという技術により、3Dマップなどの情報を活用してモバイルネットワークのエリアのレプリカを作成。レプリカ上で特定のポイントでの反射・回折などの影響をシミュレーションし、基地局と端末間のチャンネル情報をモデル化できるものだ。
ビデオによるデモでは、端末の環境の変化により映像品質が変わる様子が示された。会場ではXGMFのブースのキーサイトコーナーで、レイトレーシングのデモが公開されている。
ラゴサマン氏が、デジタルツインが6G/5Gの展開で重要だと見る理由の1つは、これによりネットワーク運用でのAI活用におけるアルゴリズムの開発や検証を大幅に効率化できるからだ。
メンテナンスにおいても障害時の原因分析やKPIの確保などに威力を発揮する。キーサイトでは、すでにRaySimの提供を開始、連携可能な回路設計やシステム設計ツールの提供も行っているという。
さらにラゴサマン氏は「ネットワークモデリングツールのEXata（エグザータ）へのRaySim機能の搭載や、大規模ネットワークへ対応などの技術開発を進めている」と明かした。
XGMFのブースでキーサイトが実施しているデジタルツインのデモストレーション
携帯インフラ＋AIで環境変化を把握
もう1つ、ラゴサマン氏が6Gの展開で重要となる技術として挙げたのがセンシングだ。
最新の移動通信ネットワークでは、基地局側で無線環境の様々な変化を把握し、対策を講じることで安定した通信を維持する仕組みが設けられている。
この仕組みを他の用途で活用しようというのがセンシングだ。
ラゴサマン氏は「認証されたドローンの検知、産業分野での安全性の確保、異常検知、人の動きの把握などの多様な利用が期待されている」という。特に高い周波数帯では精度の高いセンシングが可能だという。
センシングでも重要となるのがAIとの連携である。
キーサイトは、MWC 2025で米InterDigital社と共同でAIを活用した携帯ネットワークによるセンシングのデモを実施している。デモは、オフィスを模したデモ環境での人の動きを把握するもので、「RUから光インターフェースを介してIQサンプル情報を収集、AIが解析することで部屋の中でどういう動きがあったかを把握する」（ラゴサマン氏）という。センシングの実現にはAIの活用が不可欠なのだ。
ラゴサマン氏は「6Gの普及に従って、この技術が様々な業界に広がっていく」と話した。
さて会場内のキーサイトのブースでは、スマートフォンにアプリ・ファームウェアを実装することで、KDDIのサービス開始で注目度が高まっているNTN D2C（衛星直接通信）の通信品質を測定できるソリューション「Nemo」も展示されている。
このソリューションはドローンの飛行ルートの誘導用携帯ネットワークの通信品質の計測など、産業分野での活用も期待されているという。6G時代に向け測定機の活用領域が大きく広がりそうだ。
