「地域BWAの5G化はレディ(準備万端)だ」。今年3月に開催された説明会の席上、日本ケーブルテレビ連盟 無線利活用委員会 委員長で大手CATV事業者ZTV社長の田村欣也氏は、自信ありげにこう語った。
地域の公共福祉増進に寄与することを目的とした無線システムである地域BWAは、一部のCATV事業者が限られた市町村にサービスを提供しており、防災や防犯、見守りなどに活用されている。2020年夏に5G化(BWA 5GNR)の制度整備と技術仕様の策定が完了し、CATV事業者向けに基地局や端末の販売・運用・保守などを手掛けるグレープ・ワンが、2025 年のサービス開始に向けて準備を進めているところだ。
これまで5Gというと、キャリア5Gとローカル5Gの2種類だったが、そこに地域5Gという新たなジャンルが加わることになる。
CA技術で高速データ通信も可能に
日本ケーブルテレビ連盟は、今年3月に策定した「無線利活用戦略2024」において、この地域BWAの5G化を柱に「2030年までに自前インフラでの無線サービスで300万回線を獲得する」という目標を打ち出した。主力事業であるFTTHの成長率が鈍化し、顧客層の中心であるファミリー層も縮小する中で、今後は地域BWAやローカル5Gを強化し、「地域MNO」として第5のモバイルキャリアを目指そうとしている。
2.5GHz帯を利用する地域BWAは、1つの基地局で約2kmをカバーすることができる。5G NR方式の基地局の空中線電力は、従来の高度化(4G/LTE)方式と変わらないことから、5G化後もこれまでと同レベルのカバーエリアが可能だ。
この特性を活かして地域BWAを広域に展開し、域内にある繁華街や集合住宅、学校など多くの人が集まるエリアについては、さらにローカル5Gでカバーすることを計画している(図表1)。
図表1 無線で目指す姿:第5のモバイルキャリア
「複数の搬送波を束ねて通信を行うCA(キャリアアグリゲーション)を使って地域BWAとローカル5Gを一体的に運用すれば、より高速なデータ通信サービスの提供も技術的には可能」と日本ケーブルテレビ連盟 上席部長 兼 事業企画部長の野崎健氏は説明する。
日本ケーブルテレビ連盟 上席部長 兼 事業企画部長 野崎健氏
無線利活用戦略では、ローカル5Gの共同利用制度も“追い風”となる。
CATV業界では、工事の手間やコストの削減を目的に、CATV回線のラストワンマイルにローカル5Gを使用するFWA(固定無線アクセス)サービスの導入を進めてきた。
ローカル5G は免許取得者が自らの敷地・建物で利用する「自己土地利用」を原則とし、基本的に自己土地利用が優先されるため、他者の土地・建物で利用する「他者土地利用」でサービス開始後、そのエリアで自己土地利用する事業者が出てくると、サービスが継続できなくなるリスクがあり、それが導入の障壁となっていた。共同利用制度では、複数のユーザーが1つの基地局をシェアし、自己土地相当と見なされるエリアでローカル5Gを使えるようになり、ローカル5Gを用いたサービスの広域展開が容易になる。
ZTV(三重県津市)と愛媛CATV(愛媛県松山市)は、共同利用制度を活用した無線局の商用免許をいち早く取得。ZTVはFWAサービスの提供を開始している。「共同利用制度で、ローカル5Gを優先的に利用できるエリアを積極的に広げていきたい」と野崎氏は話す。
CATV事業者各社は、ローカル5Gのコアネットワークとして、グレープ・ワンが提供する業界統一の設備を採用しており、地域BWAの5G化では、ローカル5GのコアからDUを共用可能だ。
このようにCATV業界は協力して無線事業の効率化に取り組んでいるが、CATV事業者は規模や体力がまちまちで、それでも無線事業まで手が回っていない企業が少なくない。日本ケーブルテレビ連盟に加盟している350社のうち、地域BWAを提供しているのは113社、地域BWAとローカル5Gを提供しているのは21社にとどまる。「先行事例の共有などにより、2030年までに300社が両方またはいずれかを提供できるように支援したい」(野崎氏)という。