昨年後半から今年前半にかけて、ソフトバンク、NTTドコモ、KDDIが5G SAの商用サービスを相次いで開始した。
コアネットワークから基地局までが5G用のシステムだけで動作する5G SAでは、高速大容量・低遅延・多数同時接続といった5Gならではの機能をフルに活かせるようになる。そのため「真の5G」などといわれることが少なくない。
この5G SAの意義を通信事業者はどう捉えているのか。
「LTEの延長ではなく、異なる特徴を持った存在」と表現するのは、KDDI ソリューション事業本部 DX推進本部 5G・IoTサービス企画部 部長の野口一宙氏だ。それによると、LTEはコミュニケーションや映像、音楽、ショッピングなど「あらゆることをスマートフォン1台で完結するための通信」であるのに対し、5G SAは「社会全体がコネクテッド化し、様々な分野でDXが進展するのに使われる通信」と位置付けられるという。
KDDIでは、AIなどのアプリケーションやプラットフォームも含めてトータルで企業のDXをサポートする「ビジネスDX」を推進しているが、5Gはそのパーツの1つであり、様々なビジネスに“溶け込む”存在になると強調する(図表1)。
図表1 KDDIの5G SA戦略
「5G SAで大きい点は、LTEまでの通信と切り離されることだ」と話すのは、ドコモ 5G・IoTビジネス部 ビジネス企画 担当部長の土屋武雄氏だ。従来のキャリアネットワークは、広くあまねくつながるようにすることが通信事業者にとって至上命題だった。5G SAでは「新たな機能が増えてくるが、一律に提供するのではなく、個々のお客様に寄り添い、それぞれに必要な機能を提供する形へと変化するだろう」と予想する。
ソフトバンク 法人事業統括 法人プロダクト&事業戦略本部 副本部長の梅村淳史氏は「様々な企業とPoCをさせていただいているが、ネットワークスライシングや多数同時接続など、5G SAで初めて実現する機能への期待が大きい。プライベート5Gも含めて、それぞれのお客様がなるべく負担にならないように最適な組み合わせで提供していきたい」と述べる。
スライシングの完成は24年度以降5G SAで始まる新機能の中でも目玉となるのが、ネットワークスライシングだ。
KDDIはこのネットワークスライシングで国内はもとより、世界的に見ても先行しており、今年2月、法人向けに商用サービスを開始した。
「仮想的にとはいえ、ユーザーごとの要求に応じてオーダーメイドなネットワークを構築できることで、プロダクトやサービスに溶け込ませることが可能になる。ネットワークスライシングは5G SAの真骨頂」。KDDI 事業創造本部 ビジネス基盤推進部 部長の泉川晴紀氏は、ネットワークスライシングへの期待をこう説明する。
KDDIでは3~4年前から部門横断の組織体制でネットワークスライシングに取り組んできた。その成果が早くも表れているが、それでもまだ完成形ではないという。
というのも、ネットワークスライシングでは、無線アクセスとトランスポート、コアにまたがり仮想的なネットワークを作るが、トランスポートのスライスの連携部分に使われる識別子の標準化が完了しておらず、KDDIは独自の識別子を用いることで対応しているからだ。
また、「スライスされたネットワークを割り当てる粒度を細かく制御することができない」(泉川氏)という課題もある。例えば、スマホから特定の専用スライスに接続すると、メールなどスマホ上の他のアプリケーションもすべて同じ専用スライスにつながってしまうのだという。
このようにネットワークスライシングは進化の途上であり、「特定の時間帯だけ」「このアプリケーションのこの通信だけ」といった細かな制御が実現するのは、2024年度以降になりそうだ(図表2)。
図表2 5G SAの将来イメージ
ドコモはネットワークスライシングについて、「発展次第でビジネスの起爆剤になる」(土屋氏)と大きな期待を寄せるが、標準化動向などを見据えながら導入時期を慎重に検討している。
そうした中で、法人向けに5G SAの展開を進めつつ、ネットワークスライシングの導入を容易にする技術の開発に取り組んでいるのが、ソフトバンクだ。
同社は、パケットに付けた転送識別子によって宛先と経路を指定することで、シンプルで拡張性の高いネットワーク構成を実現する技術「SRv6」を全国の商用ネットワークに展開している。さらに、その新機能としてこの4月、「SRv6 Flex-Algo(フレックスアルゴ)」を発表した。
これは、Algoと呼ばれるスライスをIPネットワーク上に自動生成し、SRv6の転送識別子によってサービス要件に応じた適切なスライスを利用することで、より柔軟なトラフィック制御を可能にし、5Gと組み合わせて多様なニーズに応じたサービスを提供可能にするもの。5G側の識別子との連携により、ユーザーのSLA(Service Level Agreement)に応じたネットワークスライシングを安価かつ迅速に提供することを目指している。